第三十二話 ページ38
「ひっく……ぐすっ」
荘園の隅っこ。
フォルトゥナはしゃがみ込み、嗚咽を漏らし続けていた。
彼女の傍にはひげさんや柴之介が寄り添っていた。
そんな彼女の近くの木にイライの梟が留まり、じっと見ていた。
空「どう？」
占「今は行かない方がいいだろう。…泣いていた」
イライは目元を押さえて呟いた。皆彼の言葉に沈黙する。
占「話は聞いたけど…流石にフレディさんの失言だよ。まだ年端も行かぬ少女に、配慮がない」
イライは少しイラついたように言う。
調「…でも、どうするの？あの弁護士はともかく、あの子のことよ、きっと意地でも其処から動かないでしょうね…」
機「ちょっとお話ししてみる？…無理、だよね…ごめん」
占「いや、ありがとうレズニックさん。話すのは時として良い効果を得られる時もある。それで行こう」
イライはそう言いながら窓を開け、腕に帰ってきた梟を留まらせる。
占「適任者が一人いる」
☆ ☆ ☆
范「なぜ俺なんだ」
占「君が一番親しい人なのさ。彼女は荘園の隅っこにいるから、よろしく」
イライは無咎の返答を聞かずに帰って行った。無咎は舌打ちを一つすると外に出る。
謝「無咎」
范「必安、すまない。少し出る」
謝「お話は聞きました。お願いしますね」
必安に見送られ、無咎は歩き出す。
荘園内は雑草が生い茂り、枯れた植物はパキリと音を立てながら崩れてゆく。
范「隅っこ、と言われてもな…クソ、あの占い師め、修飾語がないことのなんと不自由なことか。…手当たり次第探してみるか」
無咎は取り敢えずジョゼフから貸して貰ったオブザーバーを飛ばし、場所を探ることにした。
待つ間、ふと無咎は思った。
俺は待つことが多いな。
蘇る南台橋での出来事。
彼はあの時代、あの日、あの時間、人としての生を理不尽にも終える羽目になった。
冷たい水の感覚。
流れた瓦礫で傷付けられる痛み。
死の恐怖。
何より義弟に対しての深い後悔と申し訳なさ。
失ってから後悔する。
自分たちはそのあたり前の事実に気づかなかったのだ。
范「死んでから気づくとはな。とんだ皮肉だ」
どこか自嘲するように呟いているとオブザーバーが帰って来た。
付いて来い、と言うように動くソレを無咎はゆっくり追いかけた。
着いたのは小さな、今は水の枯れた古ぼけた噴水がある寂れた空間だった。
奥の崩れかけた石階段に、フォルトゥナが体育座りで顔を埋めてそこに居た。
無咎は歩み寄る。
范「トゥナ、戻ろう」
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作者名：文学少女 | 作成日時：2019年2月4日 21時
