第十話 ページ11
彼はひとしきり笑った後、夕飯を口に運び始めた。
「それ、中国料理？」
デザートのリンゴを食べながら問うと、彼はきょとんとした後、「ほう、知っているのか」と箸を止めた。
「一時期中国に居たから」
范「そうか。…外つ国の料理は正直舌に合わん。荘園の主人とやらに頼んで出してもらっている」
彼はボソリ、と告げると再び料理を食べ出した。
いつの間にか、彼と私の二人きりになっていた。
雨が降る音が響く。
ふと無咎の方を見ると、彼はどこか悲しい、切ない顔をして雨を見ている。
「雨いいよね。静かだし、綺麗で落ち着く」
そう呟く。
范「…雨天は好かん」
彼が淡々と告げる。え？と声を発すると、無咎はこちらを向き直すと、その長い指で頬杖をつき烏龍茶を飲んだ。
「…人それぞれだもんね。でも私は雨が好きよ」
そう返すと彼は片目を開けるとコップを置き、顔を顰めた。
雨の日に、何か嫌なことでもあったのかしら？
他人のこういう顔と雰囲気は苦手だ。
…仕事がうまくいかなかった時の父の顔に似ている。
そんじゃなくても彼は会って話したのが少しとはいえ、基本的に無口で無表情、おまけに無愛想で揶揄い好きとみた。
ただでさえ、あまり会話が続けられるような青年では無いと思う。
「……明日、私初参戦なの」
范「なら俺は狩るだけだ。女子供とて容赦はせん」
彼はこちらに金色に輝く切れ長の双眸を向けた。
その目は冷たく、フォルトゥナを見下ろしていた。それはまさに、獲物を狩る狩猟者の目。
「じゃあ、逃げ切ってみせるよ。それなら正々堂々としてるし、嫌じゃ無いでしょ？」
こちらだって何も反抗せずに屠られる道理はない。
私は縛られるのは嫌だ。
私は自由でありたい。
私はカゴの中の鳥じゃない。
その為に私はあの監獄とも言える我が家を飛び出してきたのだ。
「泣き言言わないでよ？ハンター、范無咎」
范「ハッ、言うじゃないか、一番最初に嬲り吊るし上げてやろう！」
挑戦するような顔をお互いに向け合う。
雨足が強まった。
范「クッ、クク…！ふ、ははははは！お前の様な娘は見たことが無い、面白い！
ではな小娘！
次はゲームで会おう！」
彼は人外と改めて実感するような笑みを見せた後、傍にあった古ぼけた黒笠を室内だというのに差した。
すると、白い水に飲み込まれた無咎。
その瞬間、傘は独りでにハンターの屋敷方面へと消えて行った。
「自由になる為、あの神様に会う為なら何だってする」
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作者名：文学少女 | 作成日時：2019年2月4日 21時
