最期の秘密【ミヒャエル・カイザー】

第十二話 ページ13

ごめんなさい

ごめんなさい


わざとじゃないの、私だって分かってる

だけど身体が思うように動いてくれないの



最初に感じたのは数ヶ月前

マーケットからの帰り道

いつもなら走っても余裕だったのに、その日は家に着くまでが酷く長く感じて、身体が鉛のように重くて、まるで老婆になってしまったかのようだった。

その日は早めに支度をして、家事も全部、重たい身体に鞭打って済ませて、早めに寝た。

翌朝、疲れは取れていた。

なーんだ、ただの疲れだったのかな。

そう思っていたが、数週間も経たないうちにまたその疲れは来た。


それが何日も続き、日常では、ほぼ毎日貧血や物を持つ力が弱くなったりした。

包丁が上手く握れなくて食材が綺麗に切れない時もあった



ごめんなさいミヒャ


心配してくれる貴方にいつも申し訳なく思っていた


さっき叱ってくれた時だって、本当は私のことが心配なだけなんだよね。分かってるよ。


でもだめ。病院へ行けば、もっと心配させてしまいそうで怖かった。


前に一度、ミヒャに黙って出ていったことがあった。
その時は別に喧嘩なんてしていないし、叱られてもいない。

出ていこうと、私自身が決めたことだった

でもすぐに捕まった。ミヒャは私がどこに行くかなんてお見通しだったらしい。


でも…でも、今なら行けるんじゃないか

彼は私に腹を立てている
今出ていけば、彼は無理矢理追ってくることはないんじゃないか。

私だって馬鹿じゃない。彼が私の最近の行動に苛ついていることくらい分かっていた




自分のことは自分が一番よく分かってる。


自分が今後どう生きていくのかくらい、自分で決めるんだ


スマホを取りだし、日本行きの飛行機の予約をした

スーツケースに適当に衣服を詰め、財布とスマホ、必要最低限のものをカバンに入れる



「…行ってきます、」


もう二度と帰る予定のない部屋に向かって挨拶をすると、くるりと踵を返して家から出た

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