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「積極的。嫌いじゃないけど」
「ば!違います!中村さん、誰かに見られたりしたらまずいかと思って!」
「なーんだ部屋に誘われたのかと思ったのに。残念」

この人は!
真剣な顔したかと思えば、すぐにふざけて。あれ?真剣な顔してるだけでもしかしてずっとふざけてるの?

いつもいつも中村さんのペースに巻き込まれて振り回される。
遊ばれてる。私が一人であわあわしてるのを見て嬉しそうにしてるもん。


だから、本気で言ったんじゃない。
ちょっとからかってやろうと思っただけ。


「じゃあ、部屋に上がっていきますか?」


にっこり笑って挑戦的に見つめる。
私の精一杯の大人ぶった演技。


ちょっと焦った顔が見たかった。
なーんて冗談です、って言って、何言ってんだって。酒飲んでないのに酔ってんのか?って言われて、おしまい。

そう思ったのに。


「何階?」
「え」
「Aの部屋。何階?」
「8階…」

私の腕をひいて、「いこ」

って言うと、エレベーターに乗り込んだ。


ゆっくりと上りだすエレベーター。
えーと…これは…

何も話さない中村さんの背中。
繋がれた右手。


8階について、エレベーターの扉が開くと、私のほうを振り返り、先へ行くように目線だけで促す。

催眠術にでもかかったように
中村さんの意のままに足が前へ進んでいく。

一番奥の私の部屋の前。
カバンから鍵を取り出して差し込めば

カチャリ

と、やけに大きな音がした。

お互いに何も言わないままリビングに入る。中村さんの表情を見るけど、怒っているような、悲しいような、何とも思っていないような。

変なこと言わなきゃよかった。
怒らせた?でも怒られる意味がわからないし。


「あの、お茶いれますね」
「いらない」
「………。」


そう言われると、もうすることがなくて立ち尽くしてる私をよそに、中村さんはソファにぼすんと座って部屋をくるりと見回してる。


ちょっと待って!私昨日掃除した?
あー…部屋着置きっぱなしにしてる!


なにより私の部屋に中村さんがいる違和感が。

女の子らしくもない部屋に、今更後悔してもしょうがないけど…。


「A?」

そわそわしてる私を落ちかせるような柔らかい声で名前を呼ばれて、中村さんを見る。
ストンとおりた前髪のせいでいつもより幼く見える。仔犬みたいな上目遣い。


「おいで」

そう言って、手を広げ、クッと口角を上げた。

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作成日時:2019年3月19日 20時

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