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「ほら、またその顔」
「え」
「吉沢くんにそんな顔見せてたらすぐ持って帰られるぞ。」
「ナイですね。彼は今どきの超草食男子です。」
「わかってねぇなー。ありゃ羊を被ってるだけだね」
「どこが?!」
「…鈍感というかなんというか。Aはさ、スキだらけなの、わかってる?」
「私後輩には怖がられてますから」

怖がられていることを自信満々に答えた私に、中村さん苦笑い。

「わかってないのね。んー、例えば…」

「そうやって、いつも人の目をじぃっと見つめるの、癖?」
「え、そう、ですか?」

私が首を傾げると同時に、中村さんの顔がぐっと近づき、私の 耳もとにあの赤い唇を寄せた。

「それともオレにだけ、なの?」


鼓膜に響く。甘い声。

足から力がぬける。
ふらついた私を、あぶね!と腰に腕をまわして支えてくれる。


「ってね、男は思っちゃうのよ、」

いつかの朝、抱きしめられた時ぶりの中村さんの腕の中。



「なんかちっちゃくなってる
仕事ばっかして食べてないんでしょ?
ちゃんとご飯食べなよ」

「どこ触ってんですか」

「ははは、つい、ね?」

「………。」
「………。」

「連れて帰っていい?」
「…ダメです。」
「ちぇーっ、」

全然残念じゃなさそうに拗ねるふりしてる。

何を考えてるのかなんて全く読めないけど、

酔っ払って一晩一緒だっただけの女の愚痴をちゃんと聞いてくれて、

心配してくれて。

さっきもきっと守ってくれようとしたんだ。



こんな人、好きにならない方がおかしい。





凛々しい眉も、眠たげな目元も、赤く綺麗な弧を描く唇も。

この人をつくる全てが、この人が特別な人だと言っている。

私が住む世界とは違う世界の人。



なんて絶望的な人を好きになってしまったんだろう。


俯いたまま、掴まっていた腕をそっと押し返して離れる。


「そろそろ、戻ります。」

「ん、おやすみ」

「おやすみなさい」


小さくなっていく背中を見送って、熊さんのお店に踵を返した。

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作成日時:2019年3月19日 20時

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