【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました３【男主】

新たな目標 ページ36

MANKAIカンパニーによるロミオとジュリアスの最終公演の後。

｢……遅い｣

すっかり客のいなくなった人気のない道で、皇天馬は一人マネージャーである井川の迎えを待っていた。

当の本人は遅いなどと文句を言っているが、実際に連絡を入れたのはつい数分前の事で。

最も、呼ぶのが遅くなった原因がカンパニーの彼らなのか、それともたった一人の男なのか。
天馬自身分かってはいないのだが。

｢……｣

井川を待つ間、手に持っていた折り跡だらけのフライヤーを再度広げる。

すると思い浮かぶ、舞台上で光輝く役者達とその演技。

過去のトラウマを抱える自分とは違い、全力で自分をさらけ出す役者達の姿。

｢どんなポンコツ舞台を見せられるのかと思ったが……｣

結果は想像よりもずっと、自分が認めるに値するものだった。

当然そう思っているのは彼だけでなく、劇団の公式アカウントには沢山の感動やら何やらの内容が埋め尽くされている。

そしてその中には、｢流石はあの皇天馬が推している劇団だ｣といった内容も。

それを見て、天馬は一人の男を思い出した。

｢……結局、会えなかったな｣

思い出すと言うより、あの初めて会った時からずっと、天馬の頭にはその存在が居座り続けている。

言ってしまえばあの劇団を推しているのも、あの男ーーー速水Aによって興味を駆られたからに過ぎない。

『お前の演技好きだよ。これからも応援してる』

あの時に言われた言葉。

親の血筋など関係ない、皇天馬そのものに向けられたあの言葉は、未だに強く響いていて。

だからこそ、また会ってやろうと思って今日は来たというのに。
あわよくば、連絡先の一つでも交換してやろうと思ってたのに。

(……また会えるかもなって、言った癖に)

客一人一人に目を凝らしている内にすっかり空は暗くなり、騒がしかったのが嘘のように辺りは静まり返っていた。

(……なんだよ)

楽しみにしてたのは俺だけだったのか。
そんな虚しさがこみ上げる。

実際これだけの人がいれば、会えないのも無理はない。本当は分かっていた。

……だが、期待してたのもまた事実。

唯一の救いは、ロミオとジュリアスの劇が想像以上に良かった事だろう。

｢MANKAIカンパニー……か｣

皇天馬という人間を変えてくれる可能性は十分にある。

そして、同時にこの劇団を通してまたAと再会する可能性も。

｢……やってやる｣

トラウマなんてすぐに克服して、俺の最高の舞台を見せてやる。

そう心に決めた。

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