【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました２【男主】

帰る場所 ページ11

｢ただいま帰りました……｣

極力小声で言ってから、静かに202号室へと戻る。
まだ数週間しかいないというのに、すっかりあの部屋には実家のような安心感を抱いている俺。まぁ夏組が来たら部屋移るんだけどね。

(監督さんや皆はまだ起きないだろうし、俺も自分の布団で考えを纏めるとするかな)

俺が夕飯任せておいてなんだけど、既に台所でカレーがスタンバイされてると思うと憂鬱で仕方ない。

同じ階の監督さんを起こさぬよう自分の部屋の扉を開けると、そこには俺の愛用ソファーで寝ているさんかく星人が。

……いやなんで俺の部屋にいるんだお前。というかそんな所で寝て、まさか監督さん達に見つかってないだろうな？

｢三角。おい三角起きろって｣

｢ん〜？｣

肩を揺すって声をかける。
するとまだ眠いのか、目を擦りながら三角は俺の方を向いた。

｢お前なんで俺の部屋で｢Aっ！｣うおっ！｣

話の途中で抱きついて来た三角の勢いが強くて、慌てて両足に力を入れる。ちょ、重いっつの！

｢A！おかえり〜！！｣

そう言って俺の服に頭を擦り付けてくるのを見て、昨日は何も作ってやらなかった事を思い出した。

｢ごめん三角。昨日帰らなくて｣

いつも夜は絶対に部屋にいる俺が飯も作らず帰ってこなかったら、そりゃ不安にもなるよな。悪い事したと思って謝ると、いいよ〜！って笑う三角。はい癒し。

｢寂しかったけど、ちゃんと帰って来てくれたからゆるす！｣

｢……当たり前だろ。俺が三角を置いてどっか行くと思うか？｣

｢思わない！｣

俺が帰ってきただけで、あんまりにも嬉しそうにしてくれるから。こっちまで嬉しくなって、自然と口元が緩む。

｢A、俺の事置いてかないでくれてありがとう。俺、Aのおにぎりが食べたいな〜！｣

そんな、礼を言うならむしろ俺の方だ。三角だけじゃない、ここに来てから行く所のなかった俺に手を差し伸べてくれた皆にも。

俺はやっぱり、どの組にも入る気なんてない。

芝居したさ以上に、俺を受け入れてくれる皆を支えたいと思うから。

｢あー……いくらでも作るんだけどちょっと待って｣

三角に背を向け、掌で目を隠す。
いつの間にこんな涙腺ガバガバになったんだろ俺。それもこれも皆あのクソオヤジのせいだな。

芝居はしたい。舞台に立ちたい。
けど、このMANKAIカンパニーの未来を変えるようなことはしたくない。この劇団の最終形態は本編と同じだ。

ただそこに、速水Aという脇役が加わっただけの。

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