もう一つの道 ページ26
なんだか思い出せば思い出すほどにしんどさが増してきて。
「……もう一生舞台、立てないのかもな」
気がつけば大きなため息が零れていた。
何より、こんな項垂れた弱々しい姿をおっさんの前に晒している事が情けなさすぎる。
第一こんな事を話した所で、おっさんも困るだけだろうに。
(なんか悪い事したな)
何度も言うけど決して同情されたい訳じゃないし。早いとこ惨めな姿晒してごめんなさいとでも言って帰ろう。話したおかげで多少はスッキリしたしな。
そう思って口を開こうとした瞬間。
「一つ聞くが、てめぇはまだ舞台に立つ事を諦めてねぇって事でいいのか?」
「……え?」
眉の下がりきった情けない表情のまま、おっさんの方に顔を向ける。
てっきり度胸がねぇだけだの腰抜けだの言われると思ってたんだが。
「さっさと答えやがれ。てめぇはまだ舞台に立つ気があんのかねぇのか聞いてんだ」
「……そんなの、」
何故か分からないけど泣きそうになって、下唇を噛み締める。膝の上で組んでいた両手には、無意識の内に力が入っていた。
「そんなの……あるに決まってるだろ……っ!」
例え立てなくても、過呼吸起こしてその場に蹲っても。一度だってあそこに立つ事を諦めた事は無い。
それほど、俺にとって舞台は大切な場所だから。
ここで諦めたら、もう二度とあそこには立てない気がする。
そんな今にも泣き出しそうな俺に対し、何を思ったのか俺の頭を強引に撫でるおっさん。
「は、」
「……ったく、初めからそう言やいいってのによ」
そう言って、しゃがみ込む俺と同じ目線になるよう、向こうも腰を落とす。
「俺はてめぇの身に起こった事を同情する事も、ましてや理解する事も出来ねぇ。そもそもする気がねぇ。俺はお前じゃねぇしな。ただ、お前に別の可能性を示してやる事は出来る」
「な、にを」
「客演だ。もちろん主役はおろか、一瞬で終わっちまうような端役だが、舞台端に立つようなデカい場面が来る事はねぇ」
「けど、俺にそんな伝は……」
言いかけた所で、バカ野郎という罵声に次いで頭をひっぱたかれる。めちゃくちゃ痛い。
「俺を誰だと思ってんだ。この世界の知り合いなんざいくらでもいる。だから、後はてめぇ次第だ」
やんのか?
相変わらず鋭い目付きはヤクザさながらで、相手を殴る力加減も知らないおっさんだけど。
「……やる。舞台に立てるなら、なんだってしてやる」
「へっ、せいぜい足掻くんだな」
かなりいい人なのは間違いない。
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夢花 ゆめいろ星(スター)の夢花(プロフ) - Syuさん» いえいえ! なるほど……あの二人の会話がすごく可愛くて癒されましたwはい!応援させてもらいます! (2018年3月21日 0時) (レス) id: f2643ccfd4 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - rin_arsmateさん» 申し訳ございません。早急に編集致しました。ご指摘ありがとうございます (2018年3月12日 22時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
rin_arsmate(プロフ) - 偽善者が犠牲者になっています。 (2018年3月12日 22時) (レス) id: 4f08260cf0 (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - 夢花 ゆめいろ星(スター)の夢花さん» ご指摘して頂いた上に感想まで……!ありがとうございます!三角は凄く作りやすくて楽しいです。これからも頑張らせていただきますね (2018年3月12日 17時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
夢花 ゆめいろ星(スター)の夢花(プロフ) - Syuさん» いえいえ!あ、それと、凄く面白い作品ですね!!!本編を知っているからこそ不安にもなるし、支えていきたいのも舞台に立つのが怖くとも演技をやりたいって気持ちも凄く伝わってきて…めちゃめちゃ感動しました!個人的に綴と三角とのシーンがお気に入りですw (2018年3月12日 3時) (レス) id: f2643ccfd4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:祐 | 作成日時:2018年3月4日 17時