【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました【男主】

気迫 ページ19

いづみside

｢ーーー俺を置いてもらえないでしょうか｣

彼にそう言われた瞬間、身体中が震えた。

辛い境遇においても決してぶれない精神。人を惹きつける話し方。

そして何よりもーーーその強い眼差し。

『でも、』

そう切り出されてからの熱意で、彼が本気で舞台を好きな事は嫌でも分かった。

そして多分、その強い意志はここにいる全員が感じたはず。

泣く訳でもなく、ましてや自分の境遇を呪う訳でもなく。

それどころか常に前を見据え、先へ先へと進もうとするその姿勢。

(……凄すぎる)

そんな言葉しか出てこないほど、私はーーーいや、私たちは彼に惹き付けられていた。

もし彼がこの力を舞台上で発揮したら。そう考えてしまって仕方ない。

現にあの真澄くんですら、真剣な表情でひたすらAさんを見続けている。

本当なら、自分から舞台に立てないと宣言するような人間を劇団に置くのは間違っているのかもしれない。

でも、今ここで彼を、Aさんを手放すと私は一生後悔する。

そんな気がしてならない。

全員の視線が次いで私に向けられ、ハッとする。

今にも縋るような目で私を見る咲也くん。

珍しく真剣な眼差しを向ける真澄くん。

私の答えを静かに待つ綴くん。

じっと私を見つめるシトロンさん。

至さんにおいては多少驚いたようにAさんを見ながらも、横目で私の答えを気にかけている。

そして、全てを受け入れる覚悟を決め、真っ直ぐに私を見るAさん。

支配人なんて嬉しそうにしちゃって。

(みんな、そんな目で見なくても大丈夫だよ)

上手いか下手か、役に立つか立たないか。

そんなものは今の私達には、ううん、お父さんの残したこのMANKAカンパニーという劇団には必要ない。

大事なのは、舞台が、演劇が好きかどうかだ。

答えは一つ。

｢もちろん大歓迎だよ。Aさん、そして皆。改めてMANKAIカンパニーへようこそ！｣

イエスのみだ。

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