トラウマ ページ26
皆と別れた俺は、部屋に戻らずある場所に来ていた。
未来の咲也達がロミジュリを演じることになるこの場所、MANKAI劇場に。
(……よし)
息を吐き、ダメ元で扉を開けてみる。
どうやら鍵はかかっていないらしく(いや鍵くらいかけてくれとは思ったけども)、俺は恐る恐るその場に足を踏み入れた。
「暗っ!電気電気……!」
至さんから借りたスマホの明かりを頼りに電気を見つけ、劇場に光を宿す。
そして映し出された景色に、俺は懐かしさから目を細めた。
「ははっ、小さいな……」
俺の所属していた劇団の使っていた、およそ三分の一くらいしかない劇場。
本編の話から察するに、後に戦う事となるGOD座は俺達の使っていた劇場の広さ位なんだろう。
(ここで、咲也達は役者として成長していくんだな)
近い未来輝く事になる彼らを想像すると、同じ舞台に立っていた者としてそれだけで満たされた気分になる。
それを同じ劇団の仲間として見届ける事ができる俺はなんて幸せなんだろうか。きっとこの世界の、いや、全世界の誰よりも幸せ者だろうな。
(……ちょっと、立ってみるか)
自身の欲に任せ、照明の差し込む舞台に上がる。
初めに立ったのは舞台の壁側。ステージから見た一番後ろだ。
(大丈夫)
数ある役から選んだのは、動きの多い王道の騎士物語。
呼吸を整え、演じた時の感情を蘇らせる。
剣を掲げ、自身の想いを告げる主人公。
「俺はこの剣に誓う!もう誰も失わないと!」
そこから舞台の中央まで歩き、客席を見渡す。
(まだ、大丈夫)
「そして必ず、皆をこの手で守り抜く!」
数歩前に進み、
(まだ、まだいける)
「俺のこの命にかけて!」
強く床を踏みしめ、前を見据える。
そしてその背後からこちらに歩いてくる準主役と手を取り合う為、客席に背を向ける。
その時だった。
「……ぐっ!」
客席に背を向けた瞬間、一気に足場が崩れ落ちるイメージが脳内に湧き上がる。次いで蘇る、舞台から落ちていく時に感じた気味の悪い浮遊感。
「はっ……」
呼吸が乱れ、徐々に激しくなる動悸に耐えられなくなりその場にしゃがみ込む。
あまり考えないようにしてただけで、俺自身今回の件についてかなりこたえていたらしい。
舞台の端に立つどころか背を向けられないなんて、役者として致命的だ。
「う……ぐ、」
落ち着けと自分に言い聞かせながら、重い体を何とか舞台から遠ざける。
(……しんど)
俺が逃げるように劇場を後にしたのは、それからすぐの事だった。
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祐(プロフ) - 時雨さん» お返事が大変遅くなり申し訳ございません。もしよろしければどの話か教えて頂いてもよろしいでしょうか?分かり次第すぐに編集しようと思います┏○ペコ (2018年10月3日 14時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - 役不足っていうのは自分には役目が軽過ぎで満足できないなんて言うときに使う言葉ですよ (2018年9月10日 14時) (レス) id: cf954cb7db (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - 漣凪さん» ありがとうございます!今は面白いの一言が続ける気力になっております。むしろ妄想して貰えるなんて嬉しさで爆ぜそうです。頑張ります! (2018年3月3日 12時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
漣凪(プロフ) - とても面白かったです!ついつい自身でこの先の展開を妄想してしまいます(←変人)。更新頑張ってください (2018年3月3日 1時) (レス) id: 87e449a00b (このIDを非表示/違反報告)
Syu(プロフ) - 茜さん» ありがとうございます!文字数制限に毎度ひいひい言っておりますが頑張ります (2018年2月25日 21時) (レス) id: 71340f3351 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:祐 | 作成日時:2018年2月23日 1時