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いつだか、姉に勝ちたいと思った事があった。
何でなのか理由は忘れてしまった。その意志も火が消えて、どこかへ遠のいていた。
見習いは「一つだけ、勝ってみましょう」と言った。
「ひとつ、だけ」
「そう、一つだけです。審神者様はどうやら祝詞については詳しくないようですね」
「…………」
「ですから、良い祝詞を教えて差し上げます。強力で、使えた者はとても優秀だと言われる、祝詞を」
「そんなの、ある訳」
「あるんです。教えますから、気が向いたら唱えてみてください」
「……………なんで、そんなの知ってるの」
「それは、秘密です」
彼女は人差し指を唇に当て、微笑む。そして紙とペンを用意して、手を動かす。
黒いインクがつらつらと文字を並べ、書き終えると彼女はそれを私に手渡した。
「これが、それです」
「………」
「気が向いたらで、本当に良いので」
椅子から立ち上がり、「それじゃあ」と言って彼女は襖に手をかける。
「あ、言い忘れてました」
「何」
「どうやら、三日月様は審神者様の事を相当大切に思っているようですね。それからどうやら────」
「審神者様も、そう思われている様ですよ？」
「！」
「ふふふ、それじゃあ。頑張ってくださいね」
トン、と音を立て襖は閉まった。
私はしばらくの間、ただ呆然と立ち尽くしていた。
＊ ＊
祝詞、か。
仁真から教えて貰い、しばらく経ったある日。私は夜、ぼーっと縁側に座って月を眺めていた。
勝ちたい、勝てますよ、この祝詞を知っていれば、唱えれば。
あの見習いはそう言ったんだよな。これ、唱えたら何になると言うの。気持ちがこっちにでも向くの？龍でも出てくるの？
なーんて、起こるわけないのに。
『三日月様は審神者様の事を相当大切に思っているようですね』
『審神者様も、そう思われている様ですよ？』
…………両思い、か
やっぱり、私には無理な話だったんだ。好きだって思ったって、届く訳ない。
姉がいるから、魅力的でみんなを引き付けてしまう子が。そんな子に、私のような無愛想な子が適うわけない。
勝るとも思えない。
卑屈過ぎるって、他人に思われるかもしれない。だけど私にはそう思うんだ。一つも、姉に勝っている所なんて無かったから。
そう、勝てるわけ無かったから。
──── 一つだけ、勝ってみましょう
私の口は勝手に動き、祝詞を唱え始めた。
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名もない茶葉(プロフ) - みなつきさん» 好みと言って頂き嬉しい限りです！更新頑張ります、コメントありがとうございました＊ (2018年6月8日 17時) (
レス) id: f4334200be (このIDを非表示/違反報告)
みなつき(プロフ) - 初コメ失礼しますー！いつも楽しみに拝見させていただいてます♪とても私好みの作品で更新がいつも楽しみです！これからも頑張ってください〜！ (2018年6月7日 21時) (レス) id: 3e3a2fbf1f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：名もない茶葉 | 作成日時：2018年5月22日 1時
