＿＿. ページ25
彼女の傷を創ったはずの凶器は、
彼女の傷の形に唯一嵌るはずの物は、
社長が持ち去ってしまった。
塞ぐ物が何も無くなった背中の傷口からはドクドクと血が溢れ出している。
その流れを少しでも止めようと僕は両手で傷口を抑えるが、
その掌には彼女の血が大量に付着するだけだった。
『ねぇ、
やすだくん、聞いて？』
｢嫌や、聞かへん！
喋ったらあかん！｣
『わたしね、？
何でも仕事をこなしちゃう貴方が羨ましかった。
私、要領悪かったでしょ？
だから、明るく元気にやり過ごすしか方法が無かったの…、』
僕の言葉を無視して話し続ける。
それに比例し、傷口から血が流れ続ける。
『人と関わる事が少ない安田くんが、
完璧に仕事をこなす姿を見て、何故か貴方のことが気になったの。
最初は、嫉妬だと思ってた。』
｢ねえ！もう話したらアカンって！｣
涙を零し必死に訴えても、
虚ろ気な彼女には何も響かない。
そして、彼女は血塗れた僕の手を握る。
『でもそれが嫉妬じゃなく、
やすだくんを、
ううん、しょうたくんを好きなんだって、想ったの。』
彼女の言葉に目を見開き驚いていた時、
僕の手を握ったせいで血の付いた掌を僕の頬に添える。
『この前、話をきいてくれてありがとう。
他人に話せた事で、何よりしょうたくんに話せたことで、
たすかった、の。』
｢嫌やって、そんなん。｣
彼女の喋り方で悟ってしまう。
でも、信じたくなかった。
『最期にあえたのが、しょうたくんで、良かった。
わたしを、たすけてくれて……、』
＿＿＿＿��ありがとう��、
と、音は出てなかったけれど彼女の口がそう動き、
僕の頭には彼女の声でそう聞こえた気がした。
僕の頬から掌が離れ、床へと落ちた。
彼女の瞳は眠る様に瞑られ、その瞼の間から滴が零れた。
｢ねえ、駄目やって、そんなの…。｣
肩を大きく揺さぶっても返事は無い。
｢そんなん、言い逃げやんか！｣
微笑みながら目を瞑っている彼女は幸せそうだった。
｢僕の気持ち聞いてないやんか！｣
彼女が最期にそうしたように、
僕も彼女の頬に手を添える。
｢僕も、
＿＿俺も好きやったよ。｣
もう動かない彼女の唇に口付けた。
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作者名：leaf。 | 作成日時：2017年2月19日 20時
