大嫌いでした ［宮侑］

# 数センチ ページ45

「宮、速すぎ、落ち着いて」

「おん！」

「角名、さっきの良かった、その調子」

「了解、」

あれから午後練。

北さんに言われたとおり、私は練習を見て

アドバイスを施す。

正直、私なんかが口出していいのか

まだ分からないけど、

北さんに言われたし何より、

「天音！今の見とったか！？」

「ん、調子上がってきてんじゃん」

ここのチームの皆が、必要としてくれて

いるから。

宮侑も、初めは怪しそうにしていたが

どうやら私の特技を認めてくれたらしく

この数時間で話を聞いてくれるようになった。

プレースタイルはそのまま。

個性ある皆のプレーは少しでも位置を

正確に変えることで更なる磨きがかかる。

「右、前、後ろ…

あ、治、ちょっと遅い」

「確かに今のは俺もちょお思ったわ。

人に言われると分かるもんやな」

「右、左…銀、速すぎ、焦らないで」

「すまん、気をつけるわ！」

今、アドバイスを施していて

分かったのだけど、私の特技は、

“ ボールを拾う人の位置 ” でなく、

“ ボールを拾わなければならない位置 ”が

分かるようだ。

ノートにメモを取りながら、

皆に声を掛ける。

いきなりやってきた私を快く迎えてくれて、

合ってるかも分からない私の特技を

信じてくれる皆は、出来ることをやりきって

試合に臨みたいんだ。

その意志の強さに私はペンを握りしめる。

もちろん、彼らは実力者達。

だからこそ、私がアドバイスするのは

ほんの数センチ差。

それでも、その数センチが勝敗に

繋がる。

それが分かってるから、私の言葉に

真剣に耳を傾けてくれているんだよね。

私だって同じだ、皆と一緒に行きたい。

今度はコートに立つんじゃなくて、

コートの外からサポートできる人になりたい。

「終了」

気づいたら数時間はとっくに終わっていて。

あっという間に過ぎた時間に、

私は驚きながらも、自分の喉が渇いてる事に

気づいて納得する。

私、喉渇くくらい声出してたんだな。

「「「ありがとうございました！！」」」

「ありがとうございました」

ジャグとタオルを持って、急いで洗い、

合宿所にダッシュする。

こっからは夜ご飯作りだ。

まだ湿気が残る外は、夏がくることを

暗示していた。

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