大嫌いでした ［宮侑］

# 覚えるべき事 ページ20

「宮ってそんなお人好しだっけ」

「…せや、侑君は優しいからな」

「あっそ。早く帰れば」

「お前まだ信じとらんのか」

「当たり前」

……なんて嘘。

宮は嘘つきじゃないことを知っている。

でも、やっぱり怖いんだ。

目の前にいる彼は、バレー人生に

進んでいく。

光ある方向に歩いていく貴方は、

私の事なんか振り向いてちゃダメなんだよ。

置いていかれるのは、もう嫌なの。

そこまで考えて、私は目線を下に向け、

ぎゅっと自身の手を握った。

風邪のせいだろうか、とても熱い。

「…うわ、熱すぎやろ！？」

「は？」

此奴、何を考えてるかと思ったら

私の手に触れてきた。

「お前離せ！」

「ちょっとしか力込めてないで？」

「いいからはやく」

「言ったやろ。お前から離れる気

あらへんて。」

“嫌なら振り切ってみろや”

そういう宮侑。うざすぎない？

そう思って私は、思いっきり離そうと

したが、ふと思い留まった。

……此奴の手は、稲荷崎を背負っている。

そう思った瞬間に、私の力は抜けた。

「…その優しさを自分に向けろや」

小さく零した独り言。

は？と問う前に、急に質問してくる。

「お前の目の前に居んのは誰なん？」

「…宮」

「宮は二人おる」

面倒くさ … 。

「宮…侑」

「せや。侑クンや。

お前の過去忘れさせたる優しい奴やで」

「…うん」

それ以外、返す言葉が見つからなかった。

こんなに私の過去を聞いて、

そばに居ると言ってくれる人が居るだろうか。

こんなに私のことを心配して、

考えてくれる同級生がいるだろうか。

宮は私のひとつ返事に満足したらしく

私から手を離した。

「お前熱どんだけあるん」

「最後に測った時は ８，２ だったかな」

「はぁ？！」

「うるさい馬鹿」

「あ、すまん…やなくて！

とりあえず冷えピタ貼るか？

飯は食っとらんのやろ？ゼリーならあんで」

「…いくら」

「なんの事や」

「お金。」

「アホ 、看病代くらい払ったる」

「いや、でも」

「ほら貼んでー」

いきなり貼ってきやがった。

「…冷た」

思わず零れた一言。

「そういうもんや。ゼリー食うか？」

「…うん」

「おん。もっと人に甘える事を覚えろや」

ゼリーを差し出しながらそういう宮。

「……ありがとう」

素直にそういうと、彼は少し驚いて、

教室では見た事ない表情で優しく微笑んだ。

「おりこうさんやね 。」

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