. ページ9
「……特にこれと言った理由はないよ。ここに入るしかなかった、みたいな」
この口振りでは鳩原に必要のない罪悪感を与えてしまうかもしれないため、"あ、別にそんなに深刻な話じゃないよ!"と、慌てて弁明した。
「……そっか」
鳩原は布団から起き上がり上半身を出した。
「あたしの弟、近界民に攫われたの。だから、ここにきた」
鳩原の言葉に、Aは目を見開く。
鳩原に弟がいたことにも驚いたが、その弟がまさか攫われていたなんて。
「だからね、強くなってどうしても遠征メンバーに選ばれたいの」
Aは鳩原に何と声をかけるべきか、言葉が見つからなかった。と、同時に、自分が何も目的もなくここにいることがとても恥ずかしくなった。
「……ここにいる人の半分はこんな感じの理由だと思うから、気にしないで」
すっかり俯いてしまったAに、鳩原は気を遣うような言葉をかけ、はにかんだ。
___未来ちゃんはいつも、私なんかのために気を遣い、優しく接してくれる。
Aの人生で、こんなにも自分に優しくしてくれる人はいなかった。
こんなにも、この人の優しさに応えたいと思ったことはなかった。
Aは段々と、ここで自分のすべきことがハッキリとしてきたような気がした。
「……未来ちゃん。私、なんの目的もなくボーダーに入ったけど、未来ちゃんの弟を探すの私も手伝うよ」
「え?」
「私、未来ちゃんが人を撃てないなら、私が代わりに倒すから!それに、未来ちゃんが人を撃てるように練習台にもなる!それでそれで……私も遠征、目指すよ」
___だって、それが
それだけが
私をいつも助けてくれた未来ちゃんへの
唯一の恩返しだと思ったから。
「うん、決めた。早速練習してくる!」
その声はいつもオドオドとしている彼女からは考えられないような、芯の通ったものだった。
"お大事にね"と言い残し、Aは今度こそ踵を返した。
「……A」
去りゆくAの背後で、鳩原は涙を流した。
鳩原にとっても、弟を探しに行く自分の背中を押してくれたのは、Aが初めてだったのだ。
「……ありがとう」
もう既に亡くなっているかもしれない弟探しを無謀だと思われても仕方ない。
鳩原も、心の奥底ではその可能性があることを十分に分かっていた。
それでも、手伝うと言って背中を押してくれたことが、本当に嬉しかったのだ。
806人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あい - 開いたら更新されてて叫びました笑笑これからも主様のペースで頑張ってください!! (2月10日 10時) (レス) id: f18c29a8cd (このIDを非表示/違反報告)
せぱらんとすぱごん - 更新ありがとうございます!!!いつも楽しく読ませていただいております。テスト…一緒ですねw完結楽しみにしてます! (2022年2月20日 13時) (レス) @page36 id: 813f16e7ca (このIDを非表示/違反報告)
消しカス(プロフ) - かりめさん» ありがとうございます!ヒロインちゃんには荒船くんとももっと親密になって頂きたいと思います笑 (2022年2月20日 2時) (レス) id: c525913289 (このIDを非表示/違反報告)
消しカス(プロフ) - あおいさん» ありがとうございます!生駒隊のお話、どう絡ませるかすごく悩んだのでまた書きますね、笑(少し無理やり気味になってしまったのでまた書き直します笑) (2022年2月20日 2時) (レス) id: c525913289 (このIDを非表示/違反報告)
消しカス(プロフ) - かりめさん» ありがとうございます🙇♂️生駒隊のお話、ちょっと納得がいっていないのでまた書こうと思います……笑 (2022年2月20日 2時) (レス) @page36 id: c525913289 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:消しカス | 作成日時:2022年1月4日 17時