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逃げられない雰囲気に、私はしどろもどろになっていた。軽い気持ちで家に上がって、帰ろうとしたら研磨くんに告白されている。
いや、頭が冷静じゃなくてもこれはおかしい。
「で、返事は?」
「今…訊くの?」
「まぁ、早い方が落ち着く。これでも結構余裕ないし」
彼はゆっくりと私の頬にあった手を下す。あ、本当だ。よく見ると少し耳が赤い。
それを聞くと自分だけじゃないと少し安心すると同時に、研磨くんでも恥ずかしいとか思うんだと考えてしまった。
研磨くんは分かってるよ、と小さく言う。
「おれは恋人になりたいけど…君は違うでしょ」
やっぱり彼は私のことは全て見透かしてしまうのだろう。それに答えるように、私は言葉を探す。
「…私は…研磨くんとは友達になりたかった」
「うん、知ってる。Aには全くその気がなくて、おれだけがあの頃からずっとそう思ってるってことも」
「じゃあ、どうして」
研磨くんはどうしてだろうね、と表情を緩めながら呟く。
「卒業してもう一生会わないAを想うのはやめたんだよ。その後、何人かとそういう関係になったけど何か違う」
自身の手のひらを見つめ研磨くんは何か違ったんだよね、と繰り返した。
「自分から触れたいと思わない。表情の変化をみても何も思わない。その時、偶然『メイ』と会った」
本当に初めは私と知らなかったらしい。KODZUKENの話題の時、同じクラスだったことがあると聞いてそんなことはないだろうと思いながらアルバムを開いた。
「そうしたら、君の名前を見つけた」
「…まさか研磨くんだとは思わなかったよ」
「だよね。お陰であの頃の気持ちを思い出せた」
改めて彼は私の方を向いた。
「さっきは早く答えが欲しいって言ったけど、ゆっくりでいい。おれと付き合うこと、真剣に考えてみてほしい」
それは切実な願いなのだと、本当に彼が望んでいることなのだと伝わってくる。
その思いには、私も真剣に答えなければいけない。でも、私は彼のことが恋愛的に好きではないと思う。
「まだ答えは出せないけど…色々自分なりに考えてみるから、それまで待っていてくれる?」
これが私の精一杯の答えだった。返事を保留にするなんて酷い話だけど、きっと間違ってはいない。
だって、研磨くんがすごく安心して笑っているから。
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花道時代(プロフ) - えまさん» コメントありがとうございます!いつも感想を書いて頂き嬉しかったです! (4月22日 7時) (レス) id: 0bbda94348 (このIDを非表示/違反報告)
花道時代(プロフ) - 食べるさん» 感想ありがとうございます!そのように思って頂けて、書いた側としては嬉しいです。読んで頂きありがとうございました! (4月22日 7時) (レス) id: 0bbda94348 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月21日 15時) (レス) @page41 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
食べる(プロフ) - 完結おめでとうございます。主人公の考え方や最終的な二人の関係性のあり方など、共感できるところが多く、すごく楽しめました!日々の合間にこの小説を覗くことが、個人的な楽しみでした😳素晴らしい作品を、ありがとうございました! (4月21日 11時) (レス) id: 52b293a903 (このIDを非表示/違反報告)
花道時代(プロフ) - カナタさん» 感想ありがとうございます!これからも、色んな作品を書いていきます! (4月18日 14時) (レス) id: 0bbda94348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花道時代 | 作成日時:2024年3月11日 21時