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◯32 ページ33

−捕まえた−


理解ができない。心臓の早い鼓動だけが聞こえて、頭が回らない。


「け、研磨くん」


「何?」


「これ、どういうこと?」


「押し倒してる」


そういうことじゃない。

「なんでこんなことしてるの?」


「なんでって…気付いてないの?」


こくこくと頷くと、研磨くんは残念そうな顔をしている。


「さっき、おれは違うって言ってたよね」


「あれば冗談というか、そう言わないと反論できなくて」


渋々と彼は体を起こし、それと共に私もソファに座り直した。視線を研磨くんに移すと、彼も私の方を見ていた。

ものすごく重いため息が聞こえる。なんだか申し訳ない気持ちになるけど、謝るのは違う気がした。


「高校の頃、部活終わりの放課後に荷物を取りに行った時に教室に明かりがついてるのを見た。人と話すの得意じゃないから、そっと中を覗き込んでみたんだ」


物音を立てないように、そう彼は付け加える。懐かしむように微笑む研磨くんは、ぽつりぽつりと話し始める。


「そこにはいつも1人で、休み時間は空を見上げているような女の子がいて…机にへばりついて、ペンを握って勉強してた」


なんだか、どこかで聞いたことのある話だ。


「前々から気になってる子だったから、話しかけてみようかなって悩んだ。その時に足音を立てちゃって」


その女の子は驚いたような顔をして、その後すごく寂しそうに残念そうに机に突っ伏してしまった。

その姿を見て、結局荷物を取らずに逃げ帰ってしまった。


「あの子はいつも教室だと無表情で、表情が変わるところなんて見たことなかった。だから、あの時見た表情が忘れられない」


研磨くんはそう言った後、私の頬にそっと手を伸ばす。輪郭をなぞるように触れ、視線を逸らそうとしても戻される。

空いた片方の手は、私の手に重ねられている。


「今はたくさん色んな表情を見せてくれるね」


甘い雰囲気の中、私の中では一つの答えが出た。あの日の放課後の物音は、研磨くんだったんだ。

彼は一つ息を小さく吸って、優しい微笑みを浮かべて言った。


「A、おれはずっと君が好きだよ」


その告白の言葉に、私はなんと答えればいいんだろう。

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花道時代(プロフ) - えまさん» コメントありがとうございます!いつも感想を書いて頂き嬉しかったです! (4月22日 7時) (レス) id: 0bbda94348 (このIDを非表示/違反報告)
花道時代(プロフ) - 食べるさん» 感想ありがとうございます!そのように思って頂けて、書いた側としては嬉しいです。読んで頂きありがとうございました! (4月22日 7時) (レス) id: 0bbda94348 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月21日 15時) (レス) @page41 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
食べる(プロフ) - 完結おめでとうございます。主人公の考え方や最終的な二人の関係性のあり方など、共感できるところが多く、すごく楽しめました!日々の合間にこの小説を覗くことが、個人的な楽しみでした😳素晴らしい作品を、ありがとうございました! (4月21日 11時) (レス) id: 52b293a903 (このIDを非表示/違反報告)
花道時代(プロフ) - カナタさん» 感想ありがとうございます!これからも、色んな作品を書いていきます! (4月18日 14時) (レス) id: 0bbda94348 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花道時代 | 作成日時:2024年3月11日 21時

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