【nqrse】お兄さんだと思ってた。 (ページ9)

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第1章 - 7 ページ9

サ「Aちゃんはさ、あんまりこっちの言葉でないのね。」

地元の公園の話など、思い出トークに花を咲かせている途中、ふいにサヤさんが私に質問を投げかける。

そういえば、長崎に戻ってきてから私は一度も方言を使ってない気がする。

「そうですね……。東京で暮らしていた時間の方が長くなっちゃって。もう方言が出なくなっちゃいました。」

サ「そうなの。」

お母さんは長崎のお国言葉を使ってなかったの？と聞こうとしたのを飲み込んだようにサヤさんは曖昧な返事をした。

サ「なるくんもね、あんまり話してくれないのよ。向こうでお仕事するようになってから。」

「そうなんですね、切り替えって難しいですもんね。」

少し寂しそうに見えたサヤさんに、自分が出せるなるべく柔らかい声色で返したら成生さんが少し笑いながら突っ込んでくれる。

な「え、別に俺そんな意識して共通語も使ってないよ？？」

「そうですよねー、成生さんいうて共通語じゃない時多いです、なんか関西みたいな訛りしてます(笑)」

な「えぇ、いや、そんなこと…ないじゃん？？」

サ「あら、そうなのー？！」

な「わざとだよ？！俺(笑)」

「「またまたぁ」」

な「なんなん？ねえ」

すっとぼけたように声を裏返した成生さんにサヤさんと声を合わせて大笑いする。

サ「まあ、どんな話し方でもAちゃんの言葉だからいいんだけどね、ごめんごめん」

「ありがとうございます。あ、でも私だってこれから自分の人生がどっちに流れるか分からないですし……言葉の面も含めて楽しみにしてます。」

わざわざ口に出すことでもないとは思うけれど、改めて今の自分の気持ちを言葉にする。

小学生の頃。
東京に越したての私にとって九州訛りはコンプレックスだった。

当たり前に話していた言葉が通じなくて、言葉をいじられて、語尾のせいで「とっちゃん」なんてあだ名をつけられて。

今思えば幼稚な話だけれど、思春期手前の子供にとってお国言葉は絶好の排他のチャンスになる。

だから、テレビを見ながら必死に共通語を勉強していくうちに、少し前まであたりまえに使ってた言葉が出なくなった。

それは大人が仕事を機に身につけた共通語が、地元に帰ると落ちるのとは訳が違くて…

ちょうど言葉遣いの過渡期である子供の頃に方言を改めた私には、地元の言葉であっても話し方が分からない。

なんて──

さっき笑われてからもくもくとグラタンを口に運び続けてる成生さんを見ながら、ぼんやり考えた。