第1章 - 1 はじめましてとひさしぶり ページ3
私の育った街はここからかなり遠いのに、移動時間は案外短かく感じた。
すっかり見慣れた懐かしい車窓をぼんやり眺めて、思いを馳せているうちに空港に着いてしまったから。
そして歩く歩道に引きずられるように搭乗口に向かえば、あれよあれよという間に本州を超えてしまった。
空港からはまた電車を乗り継いで、さっきとは違う車窓を眺める。
数十分後。
ホームに降り立ったら、覚えていないはずなのに懐かしい香りになんだか深呼吸がしたくなった。
香りに色があるならば、この街の空気はきっとセピア色をしている。
私がさっきまで住んでいた街とは全然違う。
この街の空気を深く深く吸いこむと、なんだか子供の頃の私に戻れそうな気がした。
こころなしかさっきよりも大きく感じるスーツケースの持ち手を握り、私は駅を後にした。
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ピンポーン
「ごめんください」
目的地は小さなお庭に植木鉢がたくさん並んだ二階建てのお家。
扉の横のランプが可愛い。
しばらくして「はーーい」と声がかかる。
扉を開けて出てきたのは、法事で私に声をかけてくれた女の人
出てくるなり私を抱きしめてくれた彼女はスーツケースをひょいと持ち上げて玄関にあげ、待ってたよと頭を撫でてくれて
久しぶりの暖かさにじんわり泣きそうになる。
分かりにくいかもだけど、心の中にホットミルクが溜まっていくような感覚と似てる。
いや、心にホットミルクなんて注いだことないけど。
彼女は私を家の中に通しながら、この家族の事を教えてくれている。
「改めまして、Aサヤです。私のことは名前で呼んでくれてもいいし、呼びたい名前があればAちゃんが好きなように声をかけてね。」
「ありがとうございます。サヤさんってよんでもいいですか?」
「もちろん」
サヤさんはふわりと笑ってこう続けた
「家は4人家族でね……」
どうやらこの家の家族構成は、私の4学年上の息子さんが一人、そして彼より2つ年上のお兄さんが一人、最後に彼女の旦那さんらしい。
お兄さんの方は結婚して近所に住んでいて、弟さんの方は普段は東京で一人暮らしをしながらお仕事をしているそう。
でも、今回私を引き取ってくれたこともあって一度帰省をしているらしい。
私のために今回家族全員が集まってくれたという事にありがたいやら、申し訳ないやらでどんな顔をしていいか分からなくなっていると、サヤさんはまた私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
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作者名:ふうり | 作成日時:2018年9月8日 22時