スマイルが8個 ページ8
「また来たんか……！」
『そらゃまぁ、バイトしてるの見えたら行くよね』
最初にスマイルを頼んだ時からだいぶ時間が経った。曜日も時間も知らないシフトと私の部活終わりが被ることは少なくて、今日ゾムがバイトしてるのを見たのは2回目だ。
『今日は飲み物だけにしようかなー』
こちらの中から、と指さされたメニューの中から視線をさ迷わせてどーしよ、と悩んでいれば早く決めろ、と圧を感じる。
『定員さんのおすすめで！』
「……バニラシェイク1点でよろしいですか」
『あははっ、うん。それでいいよ。あとスマイルください！』
「そういうのはやってませーん」
私が初めて行った時よりも慣れた手つきでタッチパネルを触るゾム。結構な頻度でバイト入れてんのかな。
『嘘つけ！ここにスマイルゼロ円って書いてる！』
「目ざといやっちゃなぁ」
『聞こえてるんですけど』
「聞こえるように言っとんのや」
お金をちょうど渡せば、番号がついたレシートを渡されて、にへり、と笑われた。
不器用な作り笑いじゃなくて、なんていうか……
『気持ち悪…』
「聞こえとるからな！？」
『聞こえるように言ったんですぅ』
さっきとは反対のセリフを言い合って、レジを離れた。
今日は客が後ろに並んでるから、だる絡みはしない。
なんかなぁ……さっきの笑顔、前よりは良いけどなんて言うんだろ。
あ、大先生に似てるんだ。奥を読ませないような感じの笑顔。苦手なんだよなー。
いつもゾムの屈託のない笑顔見てるからかな。
まぁいいや。今日は店内で飲んでから帰ろーっと。お母さんは帰るの遅くなるみたいだし。
適当に2人席のテーブルに腰掛けて、画面をスライドする。
明日の課題だとか、遊びに行こーとか、そういう連絡を一つ一つ返しながら、バニラシェイクを啜る。
うーん……吸いにくい。もうちょい溶けてから飲むか。
ふっ、と携帯に影が差した。
前を向けばスタッフの制服を脱いだゾムが座っていた。
手に、大量のハンバーガーを持って。
『ぞ、ゾム……？』
「一緒に食おうや！な？」
……さっさと帰れば良かったかもしれない。
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