ソレガ世界ノ終焉ナラ【d！】 (ページ20)

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先に食事を終えた私が今度はお皿洗い担当だ
ひとらんからも食器を受け取って洗う。ひとらんは傍から離れようとしなかった

｢ねぇA、今日何する？｣
『んーのんびりしない？』
｢賛成。外に出る気分にはならねぇな｣

肩にひとらんのあごが乗る
ここまでスキンシップが激しいひとらんは珍しい

『くすぐったいよ』
｢今日くらい許してよ｣
『仕方ないなぁ』

少し動き辛いけど彼の体温が伝わってくるのは嫌いじゃない
普通の人よりも少しだけ高い体温は私を安心させてくれる

会話のリズムも内容も温度もいつもと変わらない
何気ない会話。くだらない、誰の記憶にも残らない会話
例えこれが物語ならばきっと誰も手に取ることはしないんだと思う

気がつけば空には星が瞬いていた

『あと何時間？』
｢そんな残ってないよ。後10分くらい｣
『時間経つの早～！嫌なことしてると遅いのになあ』
｢中学生みたいなこと言うじゃん｣
『率直な感想述べただけでーす』

くすくす部屋に静かな笑いが溢れる
外はいつの間にか静かになっていた
久しぶりの静けさにほんのりと心が落ち着く。それでいてどこか寂しい気持ちがした

絡ませた指にきゅっと力を入れればひとらんも握り返してくれる

｢...怖い？｣
『ちょっとね。ひとらんは？』
｢かっこつけさせろよ｣
『はいはい』

少しの沈黙

『ほんとかな』
｢ほんとだろ｣
『今更だよねぇ』
｢そうだね｣
『そっかあ』
｢来世って信じる？｣
『産まれてくる星がないじゃん』
｢生物が存在してるのは地球だけじゃないかもしれないじゃん｣
『うーん...じゃあ信じとこっかな』
｢じゃあ俺も信じとこ｣

誤魔化すように足をパタパタと振れば優しい顔でひとらんがそれを見ていてくれる
来世もあなたと一緒にいれたら、なんて私もひとらんも口にしないけど
君の考えてることくらい分かる
私と同じことを考えてるんでしょ

｢1分前｣
『これで滅びなかったら牢獄いっぱいになっちゃうね』
｢急に物騒なこと言うなよ｣
『ねぇひとらん』
｢...何？A｣

丁寧に言葉を紡ぐ
彼に目線をやれば、強すぎるくらいに返してくれた
その真っ黒い誠実な瞳が好き
実は柔らかい髪が好き
ほどよく筋肉のついた腕が好き、体が好き
優しい声が好き
少し高めの体温が好き

『愛してるよ、ひとらん』
｢俺も愛してるよ、A｣

世界が終わる日
そんなの物語でしかないんだろう
それでも私達は世界の終わりを見ることになる
甘い口付けを添えて、世界は終わりを告げる