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終息を辿る ページ39

「電話、繋がんない…?」

後部座席の隣に座り、こちらを見る敬浩くんに静かに頷く。

『…電源、切れてるって…』

震える手で何度も呼出音を鳴らしても、留守番電話サービスのアナウンスが流れる。

「電話、なんつってた」

広臣くんが助手席からルームミラー越しに視線を向ける

『…なんてって、だから…、助けてって、…!』

広臣くんを見つめながら零す。

「他には」

『他って…それ以外は…なにも、』

「なんか言ったり聞こえたりしなかった?」

運転席から声をかけてきた岩くんに、混乱する頭で紗羽からのさっきの電話の内容を思い起こす。

あの時に聞こえたのは、助けてって、紗羽の一言だけだ。

『何も聞こなかった…、助けてって言った後に電話すぐ切れちゃったから…っ、』

そう告げた後、ふと何かが脳内に響く。

あの時、何か聞こえた気がする。

受話器の向こうの、今にも途切れそうな紗羽の声を邪魔したあの音は

『遮断、機…、?』

「…遮断機?」

『…紗羽の後ろでずっと遮断機の音がして、その後、警笛がなって…それから、すぐに電車がして…』

思い起こすように呟く私の言葉に、ふっ、と鼻で笑う気配。

思わず顔を上げると、細められた広臣くんの瞳と目が合った。


「充分じゃん」


『え…?』

「この辺で、警笛鳴らしながら電車通る踏切なんて一つしかねえだろ」

『…』

広臣くんの言葉が掴めず、彼の無表情を見つめていると、

「あー…杉尾か…」

携帯を見ていた敬浩くんが小さく呟いた。

『杉尾…?』

「つってもどこにいるか分からないとねぇ…」

そう言って携帯をポケットにしまい、顔を顰める敬浩くん。

『…』

「泣いてた?紗羽ちゃん」

『うん…』

「結構本気で泣いてた?」

『っ、どういうこと!?泣いてたとか泣いてないとかそんなに重要じゃないでしょ!?』

敬浩くんの脳天気な様子に思わず声を荒らげると、携帯から顔を上げた敬浩くんと目が合う。

「Aはさ、」

『…』

「泣きながら電話する時って、どういう時?」


真っ直ぐ私を見据える敬浩くんの瞳が、暗闇の中で光る。

『っ、』

記憶の片隅に、あの夜の、暗い港湾に蘇った。


「…嫌なこと思い出させたらゴメンね」

そんな私を一瞥した後、敬浩くんは外の暗闇に視線を移した。

『っ、紗羽に、』

膝に置いた手がカタカタと小さく震える。

『紗羽に、何かあったら、私…っ、』



喉の奥から嗚咽が零れそうになり、

唇を噛み締めた。




「「「…」」」

▽→←▽



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やぁ(プロフ) - こんばんは。はじめまして!この作品が大好きで何度も読ませて頂いております。9のパスワードを教えていただきたいです。よろしくお願い致します! (4月8日 23時) (レス) id: afb0f19d33 (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - こんばんは🌃いつも楽しく見させて頂いています。9のパスワードを差し支えなければ教えて頂けないでしょうか? (1月3日 21時) (レス) id: 9ba221d380 (このIDを非表示/違反報告)
うゆ(プロフ) - はじめまして。この作品が大好きで何回も読ませていただいております!もし、差し支えなければ9のパスワード教えていただかないでしょうか? (12月16日 16時) (レス) id: 8ef99b4bc6 (このIDを非表示/違反報告)
博子(プロフ) - 続きが読みたいので、パスワードを是非教えて下さい! (9月17日 7時) (レス) id: dc8dec8862 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 初めまして。最近この作品と出会って一気に読ませていただきました。続きはもう読めないのでしょうか? (7月14日 10時) (レス) id: 222fa2acf1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jiu. | 作成日時:2019年6月2日 20時

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