残るも地獄。 ページ29
『いや、もう、帰るって…』
「金ないのにどうやって帰んの」
『それは…貸してくれれば…明日返すから…』
「無理」
上へのボタンを押し、エレベーターのインジケーターを見上げながら呟く広臣くん
『無理って…』
「今日中に払え」
『それは無理だよ…』
「あ？」
無表情で私に視線を映した広臣くん。
『…』
「臣さん、厳しいね」
その不機嫌さを宿した瞳に言葉を噤むと、後ろへ控えるスーツの群れの中から岩くんが愉快そうな声をあげる。
『帰りたいなぁ』
「…」
『絶対怒られるから叔父さんには会いたくない…』
「知らねぇよ」
『……』
私の泣き寝入りをばっさりと切り捨てるその横顔に、反撃の言葉が出ない。
降りてきたエレベーターのドアが開くと、
「乗って」
問答無用の雰囲気で私を引っ張る広臣くん。
広臣くんの指が最上階のボタンを押すのを見ながら、溜息をついた。
ゆっくりと最上階に止まったエレベーター。
下の階と同様、異様な雰囲気が立ちこめるフロアの雰囲気に、唇を噛む。
「ほな、俺ら先行ってますわ〜。Aちゃんまた会ったらよろしく頼むで！俺、久保さんな、こっちはちょーちゃんで、こっちがさぶな、ほんでこの無口なのが和希！覚えといてや！」
『え、あ、はいっ』
最初に私に声をかけてきた強面のお兄さんが怒涛の勢いで話すのにつられるように頷く
「自己紹介、今っすか？」
「やって、野替以外は初対面やん？」
連れ立って廊下の奥へ向かう野替さん達を見送っていると、
「こっち」
廊下に並ぶドアの1つに手をかけた広臣くんに部屋に連れ込まれる。
「ここにいて」
『えっ、』
「帰り乗せてくから」
『いいよ、一人で帰れるし、それに、』
ギロりと広臣くんの切れ長の目で見下ろされ、黙り込んだ私に、
「ここにいろ」
吐き捨てるように言って、部屋を出ていく広臣くんに唖然とする。
『…』
「そんな困った顔されても俺も行くよ？あ、ウォーターサーバー勝手に使っていいからね。」
『ちょ、待って、岩くん！』
同じく部屋を出ていこうとした岩くんのスーツの裾をソファから慌てて掴むと、何？と首を傾げた岩くん。
『私、1人で帰れるし、むしろ帰りたいし、』
「うん」
『広臣くんはダメだったけど岩くんがお金、貸してくれたら帰れるって言うか、』
「やだ」
『へっ、』
「…あのさぁ、A」
ぽかんと口を開けて岩くんを見上げた私を呆れたような表情で見ると、岩くんが静かにソファに腰を下ろした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1298人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やぁ(プロフ) - こんばんは。はじめまして！この作品が大好きで何度も読ませて頂いております。9のパスワードを教えていただきたいです。よろしくお願い致します！ (4月8日 23時) (
レス) id: afb0f19d33 (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - こんばんは🌃いつも楽しく見させて頂いています。９のパスワードを差し支えなければ教えて頂けないでしょうか? (1月3日 21時) (レス) id: 9ba221d380 (このIDを非表示/違反報告)
うゆ(プロフ) - はじめまして。この作品が大好きで何回も読ませていただいております！もし、差し支えなければ9のパスワード教えていただかないでしょうか？ (12月16日 16時) (レス) id: 8ef99b4bc6 (このIDを非表示/違反報告)
博子(プロフ) - 続きが読みたいので、パスワードを是非教えて下さい！ (9月17日 7時) (レス) id: dc8dec8862 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 初めまして。最近この作品と出会って一気に読ませていただきました。続きはもう読めないのでしょうか？ (7月14日 10時) (レス) id: 222fa2acf1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：jiu.
| 作成日時：2019年6月2日 20時
