▽ ページ7
紗羽 side
壁にかけていた時計は、お昼を指していた。
昨日は遅くまで起きていたから、寝すぎてしまったみたいだ。
Aはまだ寝てるかなと、視線を向ける。
『…え、』
ベッドの横に広げた布団はもぬけの殻で、一気に目が覚めた。
『…A!』
布団を跳ね除け、襖を開ける。
台所もお風呂もトイレも静まり返っていた。
『どこ行ったの…』
呆然としていると、ふと台所の机にメモが置かれているのに気がついた。
見覚えある丁寧な字に、心臓が早まる。
少し震える指でメモを掴み、字を追う。
紗羽へ
昨日は泊めてくれてありがとう。
紗羽がいてくれて良かった。
岩くんと広臣くんにも
伝えてくれてありがとうね。
朝には家に帰るって言ったけど、
私やっぱりまだ帰りたくない。
家にいても色々考えてちゃうと思うから。
ちょっと1人になれる場所に行ってくる。
少しだけ悪あがきしたら、ちゃんと家に帰るから心配しないで。
紗羽、ごめんね。
A
Aに発信した電話口からは、電源切れのアナウンスが響いた。
昨日、登坂さんからの言伝をした時は
苦笑して電源をつけていたのに。
『馬鹿A…』
一人になれる場所って何処。
いつ出ていったの。
どうしてまた電源切ってるの。
焦る気持ちを抑えようとしていると、
部屋にチャイムが鳴り響いた。
『っ…』
ー朝には帰るって言ってましたー
昨日彼等に伝えた言葉が蘇り、動悸が早まった。
何度も響くチャイム音に掻き立てられるように、玄関へ向かう。
鍵を回すと、勢いよく乱暴に開かれるドア
ドアの向こうには昨日と同じ登坂さんと岩田さんの姿
「…てめぇ、どういうつもり…『Aがいないんです!』
…あ?」
怒りを隠すことなく私を見下ろす登坂さんの声を遮り、メモを突き出す。
『起きたらこれが置いてあって…Aの姿がどこにもなくて…』
メモに視線を落とす登坂さんの眉間の皺がどんどん深くなっていく。
「なんだこれ」
「いつ出ていったかとか分かんない?」
登坂さんの横からメモを覗き込んでいた岩田さんがそう尋ねた
『分かんないです…全然気が付かなかった…連絡しても繋がらないし…どうしよう…っ、』
「どうしようじゃねぇよ。てめぇがしっかり見てねぇからだろうが」
私を見据える視線の鋭さが増し、漂う殺気に、瞳を伏せる
『っ、私、』
Aを探しに行ってきます。と、続けようとした言葉は、アパートの階段を上る音で途絶えた。
2184人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時