検索窓
今日:7 hit、昨日:39 hit、合計:743,745 hit

ページ41

隆二 side

口の中に広がる血の味。

熱いのか、痛いのか、苦しいのか、分かんねぇ。

掠れた視界に、ソファに座ってこちらを見る年配の男が映る。

「しぶと…まだ意識あるんだ、」

頭上から聞こえる関心したような声に、笑みが零れる

「…こいつシャブ中じゃねぇの?」

不意に発せられた言葉に、耳鳴りが響いた。

脳内に拡がる怒鳴り声、次第に小さくなっていく許しを乞う声

あの記憶が、悪夢が、脳内に蘇る。

血走った目でこちらを振り向く男。

生々しい痣が残る青白い腕が畳に落ちる音。

柔らかい何かを突き破る感覚。

男の目が見開いて、自分の脇腹を見つめる。

俺を見上げる男の首に、包丁を突き立てた。

ー母さん、もう大丈夫だー

男が倒れる音を聞きながら、畳に横たわる肩を叩く。

ー、母さん?ー

青あざが浮かんだ瞳は、閉じられていて。

呆然と立ち尽くす俺の視界に映ったのは、部屋の隅に転がって割れた注射器。

視線を落とした自分の手は、真っ赤に染まっていた。

ー母さん、ー

何度呼びかけても、母親は、二度と目を開けなかった。

『っ、ふざけん…な』

汚れた床から体を離し、頭上の男達を見上げる。

『てめぇらと、一緒に、…すんじゃねぇ、』

何度も家に来たスーツの男は、俺と母親を嘲笑うように見て金と引き換えに父親の手に黒い袋を押し付ける。

毎日が、地獄だった。

地獄から逃れたくて、ようやく出口を見つけたと思ったのに、出口なんてどこにもなかった。

出口だと思って開けた扉の奥に広がっていたのは好奇、軽蔑、憐れみ、畏れ、色々な色を宿した目だった。

早く、消えろよ。

『っ、』

再び痛みが走る体。
折れた肋骨のせいで、息がしづらい。

早く、俺を消してくれ。

「…強ぇなぁ」

静かな男の声に、体に与えられていた痛みが止まった。

ソファから立ち上がりこちらに歩いてくる男。

後ろから体を無理矢理起こされた俺の前にしゃがむと、

「死ぬのは怖くねぇか」

確信しているように呟いた。

「…俺は臆病だから、死ぬのが怖くて仕方ねぇんだよ。でも、お前は、」

『…』

言葉を切った男を睨みつけると

この世界には似合わない柔らかい光を宿した瞳が俺を見つめた。

「…死ぬのが怖くないって思えるくらい、生きてきたんだな」

『っ、』

何故かその瞳から目が離せなかった。

そして、

「なぁ、」

ボロボロの俺の体に目を落とした男は、

「お前、俺のとこくるか?」

そう信じられないことを口にし、小さく微笑んだ。

▽→←生に歯向かう



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (818 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2184人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。