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生に歯向かう ページ40

隆二 side


憎くて仕方がなかった。

自分も、周りも、この世界全てが。

「痛ぇなてめぇ!どこ見て歩いてんだよ!」

『あ?』

悲痛な叫びと、生じる拳の痛み。逃げるように走り去る足音。

『…』

雨が、体を濡らしていく。

傷付いた拳に滲んだ血を雨が洗い流して、それでもまだ、拳は心地いい痛みを感じていた。

「…おい」

突然、遠巻きに俺を見ていた野次馬が凍りついた表情を浮かべる。

頭に反響する雨音と、じんじんと背中に広がる痛み。

雨の音だけが耳に響いて、煩わしい。

…うるせぇな

「おい」

不意に叩かれた肩に、一気に周りの音が戻ってきた。

表の路地の酔っ払いの声。劈くようなクラクションの音。喧しい笑い声。

『…』

掴まれた肩を辿ると黒いスーツ姿の男達。

俺を遠巻きに見ていた野次馬の姿は、もう見えなかった。

『…何』

「派手にやってたみてぇだけどよ、これ、うちの車なんだわ」

男達の中でも年配の、俺の肩を叩いた男の視線を辿ると、雨で濡れて黒く光る車のボディ。

金色で刻まれた紋章を雨の雫が伝うのが見えた。

クモの巣状に割れて外れたサイドミラーに視線を送り、

『…あぁ、』

背中が痛てぇのはそのせいか、と一人納得する。

そのまま男を見て、口角を上げる。

『だったら何だよ』

俺の言葉に、男がピクリと眉を上げた瞬間、

「…っ、!」

腹に衝撃が走り、気づいたら濡れたアスファルトに転がっていた。

「最近のガキは礼儀も知らねぇのか?」

男の隣にいた、浅黒い肌の若い男が低く呟き、俺の前にしゃがむ。

ひんやりと冷たいアスファルトを皮膚に感じた瞬間、自分の中で何かが首を擡げた。

『てめぇら馬鹿かよ』

地面から体を起こして、男達を見上げる。

本当に鬱陶しい。

『てめぇらに見せる礼儀なんか、そもそもねぇっつーの』

再び腹部に衝撃が走り、肋骨が嫌な音を立てるのが聞こえた。

「…随分口が達者だな?」

顔面から地面に打ち付けられ、傷付いた背中を革靴が踏み躙る。

「威勢がいいのはいいけどね、」

俺の髪を掴んで顔をあげさせたのは、また別の、端正な顔の男だった。

「躾が必要かな?」

愉快そうに俺を見る男の目を見つめ、小さく笑う

『…そこのジジィの駄犬に成り下がるのは、まっぴらごめんだ』

男の口元に張り付いていた笑みが消えた。

「ガキが」

低く吐き捨てられた言葉と共に、貫いた痛みが俺の意識を飛ばす瞬間、

黙って俺を見下ろす年配の男の、憐憫の色を宿した瞳と目が合った

▽→←▽



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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時

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