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脱衣場の洗面台でスキンケアをしていると、ガラリと扉が開いた。
視線を扉へ向けると、首にタオルをかけ、濡れた髪のまま亜嵐くんが入ってきた。
『、ごめん、もう終わる、』
ぎゅっと心臓が縮むのに、気付かない振りをしながら平静を装う。
「いいよ、ちょっと詰めて、」
洗面台を片付ける私の横に立って、棚からドライヤーを取り出す亜嵐くんに体が少し緊張する。
ほのかに香る亜嵐くんの煙草と、シャンプーの匂いに、風呂上がりによく煙草吸えるな…と思いながら、コットンに化粧水を浸す。
コットンで顔を叩き化粧水を染み込ませていると、鏡越しに目が合った亜嵐くんと不意に視線が合った。
『っ、』
反射的に思わず目を逸らした私に、ドライヤーの音が止まった。
「あの後どうだった?」
沈黙の中、響いたその言葉に心臓が音を立てる。
「金、貸したの?」
笑みを含んだような声色に、顔を上げると、口角をあげ私を見つめる亜嵐くん。
その乾ききっていない前髪からポタリと水が垂れた。
『貸したよ…』
私の言葉にそっか。と呟いた亜嵐くんが、タオルで髪を拭う
「良かったじゃん。」
『っ、』
そう言って静かに微笑んだ亜嵐くんに、思わず唇を噛む。
『…何か、言ってた?』
「誰が?」
『直人くんと、……おじさん』
「別に何も言ってねぇよ?」
『…』
言ってても私には教えてくれないのかな。
黙り込んだ私の方に、体を向ける亜嵐くん
「、何が心配なの?」
真剣な声に、深く俯いたせいで耳にかけていた髪の毛がはらりと落ちる。
『…私、直人くんと亜嵐くんの前で、仕事のこと、悪く言っちゃったから…二人とも、気分、悪かっただろうなって、』
ふふっ、と笑うように息を吐いた亜嵐くん。
おずおずと顔を上げた私の目に、優しく微笑む亜嵐くんが映る。
「直人さんも、俺も、別に気にしてねぇよ、本当のことだし?」
『っ、』
亜嵐くんの細い指が伸びきて、そっと髪の毛を耳にかけられる。
「Aが、優芽ちゃんのために取った行動なら間違ってねぇよ」
『…ごめん、』
「気にしてないって!…だから、Aも気にすんな?」
な?と優しい表情で顔を覗き込んでくる亜嵐くんに、小さく頷くと、ポンっと頭を撫でられ、再びドライヤー音が響く。
冷たい乳液を掌に垂らす。
これは、驕りでも、自惚れでもない。
私だから、私の友達だから、
あの行動は、許されただけの話。
掌の中で乳液をじわりと白く溶けていった。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時