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不意にぼたり、とアイスの欠片が零れる。

『あっ、』

アイスの棒はひっくり返しても、何も書かれていなかった。

ハズレ、だ。

じわじわと地面に溶けていく薄水色の塊を見下ろす。

本気で好きになったことはない。

広臣くんに告げられた言葉がグルグルと頭をの中を回る。

そっか、そうだったんだ。

『…私も、一緒、だよ』

ポチャリと池で鯉が跳ねる音がした。

まるで、その音に背中を押されたように口を開く。

『私、みんなが当たり前に好きな人ができてるの、不思議で……好きな人出来ると、幸せ、恋愛は楽しいって口揃えて言うのも、よく分からなくて。』

『 その…、みんなが当たり前に感じてる幸せな気持ちを、感じられない自分が、実は凄く惨めで寂しい人なのかもしれないって思ったんだ。 』

「…」

私の言葉を静かに聞いていた広臣くんが
静かに長い足を組み直した。

「当たり前って何」

外を見つめたまま、広臣くんが呟いた。

「誰かを好きになって、楽しくなったりするのが当たり前って、誰が決めてんの」

そう言ってぼんやりと中庭を見つめる広臣くんの瞳からは、何も伺えなかった。

「…別に当たり前じゃねーと思うけど。好きになったらどうなるかなんて人それぞれだろ。」

『…』

広臣くんの形のいい唇から低く零される言葉の数々に、無意識に唇を噛み締めていた。

「楽しくて、幸せな恋愛が当たり前だって、変に期待しない方いいんじゃねぇの?…まぁ別に悲観しろっつってるわけでもねぇけど。つーか、怠い。グダグダ考えてないで気長に待てば?

……Aはいつかできんだろ、本気で好きなやつ。」


心底面倒くさい、と言った表情で吐き捨てた広臣くんに、押し付けられたのは、

まだ口を破られていないパピコ。

「甘すぎ」

立ち上がった広臣くんがそう言って、廊下を静かに歩いていく。

『気長に待てば…いつか、できる』

その背中が廊下の角に消えるのを見送り、広臣くんから言われた言葉を小さく繰り返す。

ふう、と息を吐いて見上げた夜空の星は、コンビニ帰りに見上げた時よりも、キラキラ輝いている気がした。

溶けてシャーベット状になったパピコの口を破り、夜空から広臣くんがずっと眺めていた中庭へと目を移す。

星の光が届かない、夜の闇に包まれた中庭の奥に広臣くんは何を見ていたんだろう。

常温に戻りつつある、液体状のそれを啜りながら、ふとそんなことを思った。

▽→←▽



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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時

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