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埃っぽい室内に充満する煙草の匂い。
日当たりの悪い、薄暗い部屋に足を踏み入れる。
乱雑に書類が積まれたデスクが並んでいて、真ん中に鎮座するように置かれた革張りのソファとテーブル。
そこには優芽と直人くんの姿があった。
『優芽っ、』
突然入ってきた私に、驚いた表情を浮かべる優芽。
テーブルの上の紙にペンを走らせようとしていた優芽の元に駆け寄る。
開け放したままの扉を事務所に入ってきた亜嵐くんが静かに閉め、その前に立った。
「A…なんで、ここに…」
『優芽が来てるって、亜嵐くんが教えてくれたのっ、何で…っ、こんなとこでお金っ、』
「雅人が…お金必要だって…」
『……え?』
その言葉に、優芽の顔を見つめる。
「雅人、車ぶつけちゃって、慰謝料払わないといけないんだけど、足りないみたいで…貸してくれって…」
『え…な、何で?慰謝料って、いくら?』
「30万円……10万円でいいから、明日まで必要だからって、言われたんだけど、私、今そんなお金ないし、雅人、すごい窶れちゃって、」
優芽の言葉に頭が混乱する。
『待ってよ、だからって、何で優芽がお金借りなきゃいけないの、?だってそれは、雅人くんが負担するものでしょ?優芽に関係な…「っ、だって好きなんだもん!」
私の言葉を遮り、叫んだ優芽は、切羽詰まったような、泣きそうな表情をしていた。
「好きなの、っ、だからっ、雅人が困ってるなら助けてあげたいのっ、!好きな人だからっ、支えてあげたいのっ、…Aにはきっと分からないよ!」
優芽の言葉に鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。
「っ、これは、あたしと雅人の問題だから…っ、関係ないAが口出ししないでっ、」
私から顔を背けた優芽の目には、はっきりと拒絶の色が浮かんでいた。
好きな人のためなら、何だってしてあげたいのだろうか。
…その気持ちが理解できない私は
酷い人間、なのかな。
じわじわと悲しみが押し寄せて、酷く自分が滑稽な気がした。
『…………分かった、ごめん』
俯く優芽に踵を返して事務所のドアへ向かう。
ドアノブを掴んだ瞬間、
「…いいの?」
ドアの前に立っていた亜嵐くんが小さく呟く。
『え、』
振り返って亜嵐くんを見ると、真っ直ぐ前を見据えながら
「もう、元の生活に戻れないよ」
そう静かに言い放った。
『…っ、』
振り向いて背中を丸くして書類に何かを書き込む優芽を見つめる。
その背中に、闇が伸し掛る錯覚がした。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時