日常に戻る ページ22
その日の夜。
夕飯の準備が施されている大広間の机の端に静かに腰を下ろすと、隣に座っていた岩くんがちらりとこちらを見遣った。
普段と変わらない、夕飯時。
『あの、!』
正面に座る裕太くんが、お浸しに醤油を垂らすのを一心に見つめながら、声を出すと、食器の音が止まった。
『…昨日、家に帰らなくて、』
集まる視線に顔が上げられず、裕太くんの無骨な指に掴まれた醤油を馬鹿みたいに見つめる。
『 …迷惑かけて…ごめんなさい』
尻すぼみになった言葉に小さく唇を噛む。
「…迷惑?」
ぼそりと聞こえた呟きに広臣くんのおずおずと顔を上げると、裕太くんが握ったまま離さない醤油をもぎ取った広臣くんと目があった。
「迷惑、じゃねぇよ」
私から視線を納豆に醤油を垂らしながら、広臣くんが言った。
『え、?』
私の疑問を無視して、箸を握り直す広臣くんに、クスクスと笑う声が響く。
「登坂っちは優しいねー」
頬杖をついて敬浩くんが、諭すような目を向ける。
「Aちゃんは、俺らに迷惑かけたんじゃなくて、心配かけたんだってー。だから迷惑はかかってないよって言ってあげないと分かんないよ、登坂っち!」
『…』
敬浩くんの言葉に広臣くんを見ると、その綺麗な顔に皺を寄せ、視線を落としたまま納豆をかき混ぜる広臣くん。
その姿が、なんだか拗ねてるみたいで、小さく笑うと、一瞬視線を上げた広臣くんに、鋭い瞳で睨まれ慌てて深刻な表情を浮かべる。
『心配かけてごめんなさい』
再び頭を下げた私に
「まぁ、無事でよかったよ。…おかえり」
中央の席に座る叔父さんが静かにそう言って私を見る。
『…ただいま』
目を見つめて言葉を返した瞬間、大広間の空気が変わった
「音信不通はねぇわー」
「ほんま自宅謹慎もんやからな!」
文句の嵐が巻き起こった後、いつもの騒がしい夕食時の雰囲気と会話に戻った大広間に、息を吐く。
気を取り直して夕食に取り掛かろうと箸を唐揚げに向けた瞬間、
取ろうとした唐揚げが、横から現れた箸に奪われた。
『え、』
「何いけしゃあしゃあとメインのおかず食おうとしてんの?」
聞こえた声に横を見ると唐揚げを箸で掴み冷めた笑みを浮かべる岩くん。
「遠慮しろよ、散々心配かけたんだから」
『でも…唐揚げ、食べたい…あっ、!』
私の言葉に、箸でつまんだ唐揚げを自分の口に放り込んだ岩くん。
「んま」
そう言った後、ぷいっとそっぽ向いた岩くんに、項垂れながら静かにお浸しに箸を伸ばした。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時