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海から帰る車内。
川村さんの時と違って沈黙が息苦しくなかった。
私は川村さんに無意識に警戒し怯えていたんだと、今なら思う。
そして、本来なら川村さんと同様に、若しくはそれ以上に警戒すべき相手の敬浩くんは、
警戒心や恐怖心すら抱かないくらい、きっと一緒に過ごした月日が長すぎた。
「…Aさぁ、さっき“家族の話なんて聞きたくない”って言ったじゃん？」
『…うん』
「俺も、家族の話は嫌いだよ」
突然の敬浩くんの言葉に、その横顔を見つめる。
「…俺も、Aと一緒で、父親も母親もいないから」
『…そうなの？亡くなったの…？』
「最初からいない」
そう言って敬浩くんが窓を静かに開けると、潮の匂いが車内に充満した。
「正確には、父親が誰か分かんないってだけなんだけどね」
『…え、』
「俺の母親さ、ソープで働いてたの。…その時の客の子。」
『っ、』
「10人ぐらいいるよ、父親候補」
そう言って敬浩くんは自虐的な笑みを浮かべた。
「男とヤ るか、酒飲むかしかできない女だったからね。」
「俺が産まれてからも、何回か腹膨らませて、その度違う男引き連れて婦人科行くような女が……なんで、俺のことは産んだんだろうね」
小さく口元を歪めた敬浩くんは
「俺も堕ろせば良かったのに……馬鹿な女」
吐き捨てるようにそう呟いて嗤った。
『……』
前を見ているはずの敬浩くんの瞳は、まるでどこも見ていないかのような濁った色を浮かべていた。
「…そしたら、あんな目に合わなくてすんだのにな。」
ぽつり、独り言のように呟かれた言葉。
その、敬浩くんの濁った瞳の中に、
僅かに燻る狂気を見た。
『っ、』
誰の中にだって、触れられたくないことはある。
彼は、どんな少年時代を送って来たんだろう。
どんな人生を歩んできたんだろう。
どんな世界を、見てきたのだろう。
私の頭を優しく撫でてくれるその手で、
どんなことをしてきたのだろう。
言葉を詰まらせ黙り込む私に、敬浩くんは、ハッとしたような表情を浮かべた。
「…ごめん。Aに聞かせる話じゃなかったな。今の話忘れて、」
見つめた敬浩くんの瞳は、見知った柔らかい光を灯していた。
敬浩くんは、小さい時から、ずっと変わらず、優しい、暖かい人だ。
だから、知らなくてもいいことは、きっと、知らないままの方がいい。
『……うん、分かった。』
私の言葉に微笑んだ敬浩くんが、運転席から手を伸ばし、いつものようにそっと私の頭を撫でた。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか？宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (
レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……？ (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています！！ (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：jiu.
| 作成日時：2017年11月22日 11時
