心底に埋めた劣情 ページ15
「衝撃的だったし。覚えてるよね。」
『あの時も敬浩くんが見つけてくれてんだよね』
「4歳のくせに人生に疲れたような目して海見てるから冷や汗かいたよ」
敬浩くんの後から車を降りたおじさんが私を見つけた時の、あの蒼白な顔は一生忘れないと思う。
『懐かしいな…』
海を見つめて呟くと、横から視線を感じた。
「…お父さんとお母さんには、会えた?」
敬浩くんの言葉に唇を噛む。
『会えないよ。…死んじゃったもん』
そう言った瞬間、腕を引かれ、力強く抱き寄せられた。
『…っ、!』
17年前のあの時も、敬浩くんはこうやって抱きしめてくれた。
「A、」
あの時と同じ優しい声で私の名前を呼ぶ敬浩くん。
『嫌っ、』
その腕の中で藻掻くと抱きしめる力を強めた。
やめてよ、私はもう4歳の私じゃない。
あれから17年も経ってしまった。
優しいふりをした、最低な人間になってしまった。
『私、帰れないっ、おじさんにも、みんなにも、紗羽にも、最低なことした、っ…!』
こみ上げる思いを、敬浩くんの胸の中で叫ぶ
暖かな手が頭をそっと撫でて、唇が震えた。
ずっと隠してた。
チクリと胸を刺した棘を抜くこともせず、気が付かないふりしてた。
『本当はっ、家族の話なんてっ、聞きたくない!』
小さな棘がやがて大きな棘になって、自分を突き刺すことも知らずに。
『伊杏にも優芽にも言えなかったっ、でも紗羽には話せたのっ、心のどこかで…っ、私と一緒だって思った、紗羽もっ…!』
ー私と同じくらい不幸だと思ったー
そう叫ぼうとした私の口を、敬浩くんの大きな手が塞いだ。
「…言わなくていい。Aが傷付くだけだ。」
穏やかな瞳に見下ろされ、胸が震える。
「傷付くくらいなら口にしない方がいい」
諭すような優しい声に堪えていた涙が、溢れた。
『っ、』
口を押さえたまま、私を見つめる敬浩くん。
その綺麗な顔が不意に近づいて、
『んっ、!』
濡れる目元に柔らかな唇が触れた。
『たかひろく、』
「涙止まったね?」
そう言って敬浩くんは、口元からゆっくりと手を離し、ただただ驚く私を見て無邪気に笑った。
「A、」
何事もなかったように、囁かれる優しい声に、顔を上げる。
彼の、太陽のような笑顔に既視感を覚える。
「もう帰ろう?」
あの時と同じ笑顔でそう告げる彼を、見上げた自分が、ほんの一瞬、4歳なのか21歳なのか分からなくなった。
『…うん』
小さく頷いた私に、敬浩くんは懐かしそうに笑った。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時