あの日と同じ風景 ページ12
波の音が耳奥に響く。
午後3時の海は、人気がなく静かだった。
砂の上に腰を下ろし、水面を照らす太陽から顔を背けるように、目を閉じる。
瞼の奥に映るのは、お父さんとお母さんに手を引かれて浜辺を歩いている小さな私。
満面の笑みを浮かべた私が見上げた二人の顔は、光でぼやけて見えなかった
ー「見てごらん、A。綺麗だよ。」
あの日も水面に陽の光が反射して宝石みたいにキラキラ輝いていた。
ー「Aも明日には4歳ね」
ー「どんどん大きくなるなぁ」
穏やかな会話に、歳をとるという概念がまだ良く理解出来ていなかった私は
3歳から4歳になるのはそんなに凄いことなんだろうか、と思った。
もしかしたら、明日にはこの手が、この体が、うんと大きくなって。
見える風景が変わるんだろうか、なんて思ったりした。
ー『大きいなくて、いいもん』
急に怖くなって、ふくれっ面でそう呟いた私に、お父さんとお母さんは優しく笑った。
ー「それは困るなぁ、」
ふわりと大きな優しい手に抱き上げられ、澄み渡った青空が近くなる。
ー「大人になって…どんどん綺麗になって…ママに似てくるAを見るまでは、
お父さん、もったいなくて、死ねないよ」
そう言ってお母さんと二人顔を見合わせて笑う姿が眩しかった。
お父さんとお母さんが笑っているだけで
私はとっても幸せだった。
『……』
潮風に髪が攫われ、目を開ける。
青空が広がる閑静な海は、穏やかに波打っていた。
この海にくるといつも思い出す。
この海にお父さんとお母さんと来た翌日。
私の4歳の誕生日に、
あっけなく二人は死んだ。
…お父さん、私もう大学生になったよ。
お酒も飲めて煙草も吸えて選挙もいける。
大人になったのに。
『お父さんは嘘つきだね』
歳を重ねたのは私だけ。
3歳のままの、小さな私が、
ふくれっ面の表情のまま此方を見ている気がした。
パンプスを脱ぎ、波打ち際を歩く。
踝に波が押し寄せて引いていく。
ねぇ、お父さんお母さん。
『死ぬ時ってどんな感じ？』
痛い？苦しい？寂しい？
悲しい？辛い？怖い？
足元に打ち付ける水が心地よくて
身体が冷たさを感じることに泣きそうになった。
もう一歩踏み出そうとした瞬間
「お嬢さん、」
力強く腕を引かれ、
「さすがに、それは風邪ひくよ」
大きな体に抱きとめられた。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか？宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (
レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……？ (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています！！ (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：jiu.
| 作成日時：2017年11月22日 11時
