イエローリップ・ストーリー【S.S】３’ (ページ16)

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＃８６ページ16

「仁科さん、しばらく体を動かしていなければこうなることが普通ですから焦らずゆっくり行きましょう。」
「あ、はい…」

先生は相変わらず優しい笑顔と優しい声でAをフォローする。

だけど、Aはどうだろう。

そう言われてもAにとって、初めて現実を突き付けられた分どんな気持ちになっただろうか。

先生は俺をちらりと見た。

目が合った。

優しく微笑んでいる。

でもその目は、「Aを恋人として精一杯支えてやってあげて。」という儚いまなざしにも見えた。

「A、俺はどうしたらいいかな？」
「あ…腰、腰持っててくれた方が嬉しい…」
「ん、わかった。」

俺まで動じたらAは完全に不安になる。

だって、今俺が焦っていたらそれが態度と声でAに伝わってしまうから。

冷静に、落ち着いて。

Aを安心させることだって、俺の大事な役目なんだから。

「じゃあ、もう一度立ってみましょうか。」

先生はAの筋肉のどこを重点的にリハビリすればよいかを目の前で見ながら考えている。

手すりの横には看護師さん、そして腰を支える俺。

「立て…てる？」
「あぁ、立ててるよ。」

でもそれは俺が腰を支えてあげているから。

…そんなこと、言えないんだよ。