テンダーサイン７’ 【N.K】 (ページ26)

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２３６．その先。ページ26

智くんはご飯をテーブルに用意するなり、私に「先に食べていいよ」と言った。

「いただきます」
「ん、どーぞ。」

私の冷蔵庫の中身なんて存分に料理ができるような量の食材が入ってないのに、智くんはそんな限られた状況の食材でも満足のいくものを作れる。

それは料理に限ったことじゃなくて、智くんが得意とする工作や美術関連だってそうだった。

智くんのどんな状況でも自分の力を最大限に表現できる人っていうのは現在進行形みたい。

「おしゃれな朝ごはんだね」
「んは、俺と付き合う子はこれ食べれるな」
「幸せだね」
「だといいな」

智くんも席に着き、私が食べている姿を嬉しそうに眺めていた。

「…俺、ちょっと不安。」
「なにが？」
「…Aより好きな子なんてできんのかな。」

まただ、って思った。

智くんはまた私と同じことを考えていた。

でもそれを考えていた私っていうのは何年も前の話で。

私は智くんよりも二歩も三歩も先を歩いていた。

智くんは笑顔なのにどこか不安げな顔をしてた。

「智くんが私を完全な思い出にすることができたら、きっと進めるよ。」
「本当？」
「ほんと、だって私がそうなんだもん。」

私がそういうと智くんはどこか腑に落ちない表情の中笑顔を見せてくれた。