【夏目友人帳】猩々緋 (ページ14)

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十三ページ14

夏目貴志side

暗転。

目の前が真っ暗になった。何も見えない。けれど周りを見渡すと、そこに一つの光の筋が現れた。耳を澄ませば、聞き慣れた声が俺を呼んでいた。

『────つめ、…夏目！』

「…あっ。お、おはよう？」

『おはようじゃない。もう着いた。いくら呼んでも起きないなんて、随分深く眠ってたんだ。』

「ああ。夢を見たんだ。」

『夢？』

首を傾げたAに、俺は夢の内容を思い出しながら説明した。後ろの座席では、俺達の会話に名取さんが耳を傾けている。

「…A、君の夢を見たんだ。幼い君が…えっと、ジャングルジムで遊んでいたんだ。」

『はあ？』

「ジャングルジムか…。猿みたいだね。」

『黙れ名取のクソジジイ。』

「ん？」

『…別に。』

無言の圧力をかける名取さんと、不服そうな顔をしたA。俺は二人に嘘を吐いた。確かに俺が見た夢にジャングルジムは出てきたし、Aはジャングルジムの上にいたから遊んでいたというのはあながち間違いでもない。けれど俺は一番重要な、現人神のことを話さなかった。話してはいけない気がした。

「夏目、お前本当は何を見た？」

ニャンコ先生が、俺にだけ聞える小さな声でそう問いかけた。俺は二人に聞こえない様に、声を潜めてニャンコ先生に夢の全てを話した。

「成る程な。道理で人間らしくない匂いがした筈だ。それにしても、ふむ…現人神か。」

「何だニャンコ先生。現人神を知ってるのか？」

「まあな。まあ現人神は星の数ほどいるからな、お前が見た現人神が私の知る現人神かは分からん。」

ニャンコ先生はそう言うと、目を閉じた。そして勿体ぶるように、だかしかし、と前置きをした。

「一人の人間に構う物好きは、一人しか思い浮かばない。」

「それって誰───────」

それって誰なんだ。そう言いかけた時、頭にズキリと痛みが走った。まるで、これ以上何も聞くな、とでも言うように。

『夏目、どうかしたの。』

「いや、何にもないよ。」

『…そう。これから少し歩くから、辛いなら言いなよ。』

そう言いながらAは俺に水を渡してくれた。ありがとう、とお礼を言うとAは恥ずかしそうに頬を染めた。