【夏目友人帳】猩々緋 (ページ11)

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十ページ11

夏目貴志side

「少しお手洗いに行ってくるよ。」

電車の中で、名取さんがそう行って立ち上がった。この電車にお手洗いは無かった気がしたが、それを言う間もなく名取さんは行ってしまった。

「それ、綺麗だね。」

コンビニで買ったお菓子を差し出せば、すっかり機嫌が良くなったニャンコ先生。そんなニャンコ先生をジッと見つめる彼女と、俺は仲良くなりたいと思っている。

ふと、彼女の首元にかかるとても綺麗な赤い石のネックレスを見て、そう告げた。すると彼女は一瞬目を見開くと、直ぐに何もなかった様にして口を開いた。

『…猩々緋。』

「え？」

『この“赤色”の名前。ただの赤色じゃなくて、猩々緋っていう、権力や権威を表す最上の赤。』

「物知りだね。」

『…別に。』

彼女(○ikipedia)曰く、猩々緋の羅紗を織田信長や豊臣秀吉など名のある武士が陣羽織に仕立てて愛用したため、権力や権威を表す最上の高級品として扱われたんだとか。

「そんなに綺麗な赤、初めて見たから気になったんだ。」

『普通の奴には、この猩々緋は見えない。』

その一言に、目を見開いた。お菓子を頬張るニャンコ先生の動きが一瞬止まったのを、視界の端で見た。

「え…」

『“みえる人”には、見える。この猩々緋の石は妖の力に反応して色を増していく。だから、普通の奴には見えない。』

「その石に“指切り”をした妖の力を封じているのか。」

そう言って彼女を見つめるニャンコ先生の目は、いつになく真剣だった。

『…答えるつもりはない。』

「無言は肯定と捉えるぞ。」

『関係無いでしょ。』

関係無いと彼女は言った。でも、違う。違うんだ。君がそうでなくても、俺は。西村に毒を吐きながらも、楽しそうに笑う君を見た。北本に可愛がられる君を見た。今にも押し潰されそうな背中を、守りたいと思った。だからもう、関係無くない。

少しでも君を知った俺は、君を放って置けないよ。

「関係無くない！」

『はあ…？』

「俺は！…その、Aのその石についてこれ以上は聞かないけど、でも！関係無いっていうのは、納得出来ない。取り消してくれ。」

『何言ってんの。』

「いいから！君と俺は、関係無くない。だから、さっきの言葉は取り消してくれ。」

彼女の瞳が揺れた。

自分でもガラじゃ無いくらいに、大きな声が出た。でもこれだけは、譲れないんだ。