狂愛【ヤンデレ短編集】 (ページ2)

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「A、オレと一緒に来い」

真剣な顔で言われたことに一瞬理解が遅れた

『何を言ったかと思ったら……それに同意する理由がないね』

睨みつけながらそういうと、触手がより強く自分の体を締め付けた

『いっ……』

「おいおい何か勘違いしてるんじゃねぇのか？」

兄弟は自分との距離を一層詰めた

「これはお願いなんておやさしいものじゃない。“命令”だ」

エメラルドグリーンの瞳に睨まれる

漏れる威圧に負けそうになりながらも睨み返す

だが、そうしているうちに段々と不安な気持ちになってきた

得体の知れない恐怖がだんだんと自分を支配する

冷静に考えると、この状況は絶体絶命だ

頼りになる兄弟はいない

街の人間たちは殺された

目の前には変わってしまった兄弟

ここにはもう、自分とNightmareしかいないんだ

「その通りだ。段々と状況を理解できるようになってきたか？」

体が強張る

恐怖に負けて、言葉が出ない

「この世界にいるのはオレとAだけだ。………だが」

お前にとっても悪い話じゃないだろ？という兄弟に機能しない頭の中、ジッと視線を向ける

「これで、Aを傷つける奴らもいなくなった」

瞬間、呼び寄せられる記憶

ポジティブとネガティブの調節者である自分を好いてくれる者はもちろんいた

その一方で、自分のことを嫌う者もいた

兄弟には言わなかった

言ったら余計な心配をかけると思っていたし

自分自身の問題だと思っていたから

でも、いつの日だったか今となってはもうわからないが兄弟にバレた

当時は「兄さん」と呼んでいたその人は自分と同じ……いや、それ以上の痛みを知っていた

それなのに、自分のことを第一に心配してくれた

そんな兄さんが大好きだった

拘束は既に解けていた

『に……さ』

目の前の者は兄じゃない

そうわかっているのに思わず縋ってしまう

でも間違いなく目の前にいるのは兄だ

違う、コイツは兄弟じゃない

自分の痛みをわかってくれたのは兄さんだけだ

それでも、コイツは兄さんじゃない

もう、何を信じたらいいのかわからない

渦に、呑まれる