6.男と鬼 ページ6
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島にいた男は、さては天然だな、と犬は見抜きました。
行方不明になっておきながら、それが噂にもならないと思っていたのか、考えもしなかったのか。
どちらにせよ、なかなかです。
桃太郎と話してはいるものの、男の目は焚火のそばの動物たちに向いていました。
気づいた犬はとことこと近寄り、「撫でますか?」とばかりに上目遣いで見上げました。
「……撫でていいすか」
「どうぞ」
男は撫でるのがとてつもなく上手で、犬はあっという間にお腹を見せて地面に転がりました。
「いいな。僕も僕も!」
雉もすぐに男の手つきのとりこになりましたが、猿だけはまだ怖がって近づこうとしません。
桃太郎は犬と雉の様子を見ながら、「ここに住んでるの?」と話を続けました。
「あ、うん。住まわしてもらってて」
「誰かと住んでんの?」
「いい人たちすよ。
泊まる場所がないって言ったら、多分泊めてくれると思う」
男が桃太郎たちを連れていったのは、洞窟の中に作られた家でした。
壁は岩ですが、床は木ではられ、掃除も行き届いています。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「遅せえぞ」
家の奥から出てきた2人の額には、それぞれ赤と青の角がにょっきりと生えていました。
赤い角の持ち主が赤鬼(演:宮舘涼太)、青い角が青鬼(演:渡辺翔太)です。
「おおお鬼やぁっ!」
肝をつぶした猿が逃げだしましたが、桃太郎は鬼たちをまっすぐに見て、正面から向き合いました。
「俺、鬼に初めて会った」
「そう」
「戦ってみたかったんだ」
「なるほど」
赤鬼の声は静かでした。
青鬼は「ああ?」とヤンキーのような声ですごみました。
「お前それどういうことかわかってんのか?」
「この人は強いよ」
と口添えをしてくれたのは、黒い袴の男です。
「俺、太刀筋見たから」
「マジで?」
「避けれたけど、本当にぎりぎりだった」
言いながらも男の手は、夢心地の犬と雉をさわさわと撫で続けています。
青鬼は赤鬼を見やり、赤鬼はこっくりとうなずきました。
「わかった。上がって」
「え?」
「ご飯食べて、今日はここに泊まるといい」
「こいつの飯、マジで美味いから食い過ぎんなよ。
あと風呂入ったらちゃんと保湿して髪乾かせ」
「え? え?」
目をぱちくりする桃太郎に、赤鬼は微笑んで言いました。
「明日の朝、正々堂々と相手をさせてもらうよ」
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作者名:知り合いのすのたんに布教を受けました | 作成日時:2023年7月11日 17時