5.町と島 ページ5
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大きな町に着くと、いなくなったイケメン武芸者の噂でもちきりになっていました。
お城の殿様に仕える武芸者の中でも、一番強かったらしいのです。
船を10隻も持って商売をしている殿様は、船よりたくさんの武芸者を雇って船を守らせていたのでした。
「鬼ヶ島は輸送船の補給地にちょうどいいのに、あの鬼どもがいるせいで……。
お前も船を守ってくれるのか?」
「僕は鬼と戦ってみたいんです」
「そう言って船をかすめ取るやつが山ほどいたんだ」
殿様は次々と武芸者を差し向けましたが、誰ひとり桃太郎には勝てません。
武芸者全員がのされてしまうと、殿様は桃太郎に言いました。
「お前、やはりここで働かないか? お前ほど強いなら、誰かの下につくべきだ」
「僕は鬼ヶ島に行きます。そう決めてきたので」
「……あっそう」
殿様は一番小さくて一番ぼろぼろの小舟を貸してくれました。
4人は意気揚々と海に出ましたが、船には底に穴があいていました。
桃太郎と犬が櫂をこぎ、猿が水を汲みださなければなりません。
3人とも必死になって動きました。
「あっちに島が見えるよ、もうちょっとだよ!」
雉が空の上から方角を見てくれたので、何とか島にはたどり着けました。
が、日はとっぷりと暮れ、全員すっかりくたびれてしまいました。
「今夜は野宿かなあ」
焚火を囲んで最後のプロテインバーを分け合っていると、暗がりで小さく足音がします。
「誰だ!」
桃太郎はとっさに刀を抜きましたが、やってきた男(演:目黒連)はその剣先を素早くかわしました。
「いや、火が見えたから火事かと思って……」
黒い袴を履いた男は、焚火の明かりでもわかるくらい物凄いイケメンでした。
二重瞼と黒目がちの目に、すっと通った鼻筋。
少し乱れた黒髪も色気を添えています。
「まさか……帰ってこなかったイケメン武芸者……?」
「え……?
あ、そっか。町ではそういうことになるのか」
男には、自分が行方不明だという自覚がなかったようでした。
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作者名:知り合いのすのたんに布教を受けました | 作成日時:2023年7月11日 17時