優等生恋情【不死川実弥】 (ページ6)

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家に帰ったら、この渦巻く感情は涙に変わるのだろう。もうこれ以上二人を見ていたくなくて、私は足早に横を通り過ぎた。いや、通り過ぎようとした。

「あら、天谷さん」

鈴のなるようなきれいな声だった。自然と立ち止まる。

「遅くまで残るなんて珍しいわね、何かあったの？」

さすが胡蝶先生だ、と思った。やっぱり私はこの人を憎めない。私だけではなく、全人類が。

「竈門くんとしな……玄弥くんと勉強してました」

不死川先生の手前、名字に君付けは憚られた。不死川くんごめん、と心の中で謝っておく。

「数学かァ？」
「はい」

横で話を聞いていた不死川先生が話に入ってきた。やっぱり弟のことは兄として気になるんだろう。私のことだって、もう少し気に留めてくれないかなあと贅沢を思う。

「玄弥は数学が苦手なんだよなァ」

確かに勉強中、そんなことをぼやいていたような気がする。数学教師の弟は数学が苦手。対照的だ。

「そうみたいですね、勉強中も言ってました」

不死川先生と話していると声のトーンが自然と上がる。自分で普段通りにしようとしてもできないのだ。その理由は今の心拍数が示している。

「天谷さん、数学とっても得意だものね！この前も学年で一位だったんじゃない？」

どうやら私のテスト結果は他教科の先生にも伝わっているらしい。なんだか照れくさくなった。

「……あっ、大変！私小テストの丸つけ溜まってるの忘れてたわ！」

突然胡蝶先生が用事を思い出したようだった。確かに何度か生物の小テストを実施したのは覚えている。けれども一枚も結果が返って来ないのでおかしいと思っていたところだ。
パタパタと職員室に駆けこんで行く。嵐のように去っていった胡蝶先生をぼうっと見つめた後、不死川先生と顔を合わせて笑った。