優等生恋情【不死川実弥】 (ページ2)

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不死川先生は良く生徒のことを見ている。成績の悪い生徒には補習を設けて、徹底的に教え込むようだ。私は補習対象になったことは一度もない。先生に良く思われたいから優等生でいるのだ。

一度だけ、たった一度だけ先生が私のことを褒めてくれたことがある。学年末テストで満点を取ったとき。頑張ったなァ、と。少しかさついた手で私の頭を撫でた。心臓が煩い、と初めて思った。

「発展問題、あー……」

今授業でやっているのはチェバの定理の発展問題。図形は私の得意分野でもある。

「天谷」

先生と目が合った途端名前を呼ばれた。あまや、天谷。低くて聞き心地が良い大好きな声で呼ばれた自分の名前を反芻する。

「……はい」

前に出るよう促された。椅子をギギギと後ろに動かしてどこか気だるげに黒板の前に移動してみる。みんなの視線が注目する場所。背中がかゆくなる。

白いチョークを手に取る。さっきまで不死川先生が持っていたチョーク。それだけでただの石灰の塊が特別なものになる。
指先が熱くなった。チョークから先生の熱が伝わってくるような気がした。

解答を書き終えて自分の席に戻り、再度黒板を見つめた。先生の端正な文字で埋め尽くされた黒板に、自分の丸文字はやけに目立つ。不死川先生はそれに赤いチョークで丸を書いた。

なぜ自分が指名されたのか。そんなのもうわかっている。変に期待してはいけない。その問題が、発展問題だったからだ。

死ぬほど勉強して、自分を丸めて、ようやく手に入れたのが数学学年一位の座。それでも先生の中での評価は“優秀な生徒”。あの問題を確実に解けるのは私だと思ったのだろう。

けれどもあの勉強がなかったら私は未だにただの“生徒”だ。まだいい方かもしれない。号令で適当に挨拶をし、今日の一方通行な逢瀬は終わった。

トン、と机に当てて端をそろえる。新品だった教科書も今ではこんなにボロボロになってしまった。報われない私と、どんどん朽ちていくそれを重ねてしまう。

「あの！！」

背後から大声をかけられた。何用かと振り向けば、校内では有名な人物。何度冨岡先生に注意されてもピアスを外さない問題児の姿がそこにあった。

「……なんでしょう」

「玄弥に数学を教えてくれないか！！」

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今までとジャンルや嗜好を変えたので読者さんがつくか不安です。
頑張ります…。