番外編5 ページ8
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もしかしたら、明日は雪が降ってホワイトクリスマスになるのかもしれない。未だ信じられないこの感覚に、頭の中にそんな事がよぎった。
夕飯時といえど、クリスマスイブなだけあってイルミネーションの近くには人だかりが出来ていた。その中をかっちゃんにおぶられて歩くのはとてつもなく恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
「……」
「……」
一言も発さず、ライトアップされた街を歩く私たちを周りの人が不思議がる。色々と話している声を聴きながら、何も言わないまま進み続けた。
駅前のイルミネーションを抜けると、先ほどまでの人だかりが嘘のように周りに人が居なくなった。私はかっちゃんにもう歩ける、と言うタイミングを失い、ずっと背中に乗ったまま。
「ねぇ。」
「んだよ。」
「あれ、なんだろ。」
ふと公園の前を通りかかった時、その中に光が見えた。めんどくさがるかっちゃんを押し切り公園の中に進むと、彩られた木々が私たちを出迎えた。
「綺麗…。」
私の一言に、かっちゃんがあり得ないという顔をする。たかが数本、電球で飾られただけの木に何を思う事があるのか、彼は疑問に思っているのだろう。
だが、恐らく誰かが趣味で飾り付けをしただけのとても小さなイルミネーションは私の心を動かすのには十分だった。
なんて事ない日常が、ちょっとしたことで輝きだす。どこかメルヘンチックな考えをこのイルミネーションが映し出しているようで、この景色は絶対に忘れない、なんて私までどこかの小説の主人公になった気分だ。
たぶん、いや、絶対つまらないと思って見ているであろう彼だが、私の気が済むまで付き添ってくれた。
出久に対する態度は極悪人と言っても過言ではない。その姿に嫌気が刺すものの、かっちゃんが極たまに見せる不器用な優しさは、思わずこっちが笑ってしまいそうになるほど温かい。
「今日は最悪の日だと思ってたけど、これで全部良くなった。」
「そうかよ。」
「ありがとう。」
まだお礼を言えてなかった、そう思って声をかける。
「気持ち悪りぃ。」
辛辣な一言に、思わず蹴りを入れた私の足がかっちゃんの脇腹に当たる。グェッ、とうめき声を出した彼は私の行動にイラついたのか、落とされそうになった。
ここまで来たら家まで乗せて帰ってもらおう。そう思った私は、意地でも落とされないようにしがみついた。
クリスマス、なんて特別な日でも、私たちの関係は変わらない。
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作者名：レモネード | 作成日時：2023年12月22日 22時
