74.彼らにしか ページ36
＊
「チッ。」
聞き覚えのある舌打ちが１つ。喧騒の中に響いたその音に、話し声がピタリと止む。
「おい、起きろ。」
「んーうるさいー。」
うるさい、そう言い放つAを睨みつける爆豪。イラついている姿の彼に、誰もが爆破される、そう思った時だった。
「はぁ、ったく。」
Aの体を少し起こし、背中と膝に腕を当てる。そのまま立ち上がった爆豪は、彼女を抱えなおすとそのままドアの方へと歩いて行った。
「今の、爆豪か？」
「穏やか…だったな。」
「ああ…、驚いた。」
目を疑う光景に、再び熱を増す空気。
「え？今のお姫様抱っこだよね！」
「爆豪さんも、真宮さんにはお優しいのですね。」
「絶対爆破すると思ったよ。」
爆豪の姿に衝撃を隠せない男子と、興奮する女子とでテンションに差が生じていた。
「爆豪くんって、Aちゃんにはいつもあんな感じなん？」
麗日の疑問に、全員の視線が集まる。爆豪のことで驚いていた緑谷は、昔からの2人を思い浮かべていた。
「うーん、確かに他の人に比べると、かっちゃんはAちゃんに対してかなり優しいよね。」
どこか遠い目をしながら話す緑谷に、A組のメンバーは彼らにしかわからない空気感を感じた。
「おい。てめェの部屋ここか？」
「んー」
「チッ」
何度声をかけてもまともな返事のないAに、爆豪は半分呆れながら、適当に引いてあった布団の上に彼女をおろした。
「出久…。」
「…あ゛？」
わずかに聞こえた嫌いな名前に、睨みをきかせて振り向く。だが彼女はまだ眠っており、その寝言に怒りを覚えた。
さっさと帰ってやろう、そう思った直後。
「かっちゃん……行かないで…。」
自分の名前と共に、どこか哀しげな声で呟かれた言葉に、思わず爆豪の体が固まった。
「は、」
まだしっかりと閉じられた目。部屋から出ようとする爆豪を見たわけはないとしたら、彼女は悪夢でも見ているのだろうか。泣いてこそいないものの、まるで置き去りにされた子供のような声を聞き、幼い頃が思い出される。
「はぁ。コイツは本当に…。」
深くため息をついた爆豪は、軽くAの頭を撫で、そして去っていった。
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作者名：レモネード | 作成日時：2023年12月22日 22時
