歌い手様短編集[大人数合作]part6

マスクとピアス　byこたつむり ページ7

「それ、外さへんの」

「さァ？ どうしよ」


いつもマスクをするAに、普段だったら絶対聞かないであろうことを口走る。
普段だったら、である。
初めの頃、同じことを訪ねたときは気分を害したようで、あからさまに嫌そうな顔をしていたのに。
それだけ親交が深まったってことやろけど。
今回はどうしようか悩んでいるようにマスクをイジる。

屋上にいるからなのか、秋の風が僕とAの間を吹き抜ける。
秋の彼岸も終わり、「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉通り、もう秋らしく冷え込んできたのだが、入学してから一度も外したことはない。
流行り病があるわけでもないのに、どうしてつけるのかと不思議に思ったことは幾度もあるが……


「珍しいやん、ちゃんと答えてくれんねん」

「気が向いただけ。なァ、ピアス開けんのって痛いか？」

「そうやなぁ、開けるときは痛いけど、落ち着いたら痛ないで」


にやにやとからかうような笑みを浮かべながら率直に聞くと、素っ気なく返してくる。
何かを思い出したように尋ねるAに、無意識の内に右側のピアスをいじりながら答える。
もしかして、僕のピアスに興味を持って……？ なんて、ありえへんか。
ふざけたことを頭から追い出し、一番安全なのは医者に開けてもらうことやでと付け足す。


「ふぅん、そんなもん？ 自分で開けるのは？」

「自分で開ける(セルフピアッシングする)んならピアッサーやったり、ニードルを使うとええで。安全ピンはだめ。バイキン入りやすいさかい。あとは、消毒は開ける前後できちんとね」

「へぇ……」


他のことに関心をいだいているAは珍しく、「どこに売ってるかな……」と呟いた。
Aもピアス開けるんやろか、なんて考えていると、学校のチャイムが鳴ってしまい、二人で慌てて教室に向かう。



今日もまた(二人だけだが)屋上に集まっていると、Aが左側にピアスを開けていることに気がついた。
自分とは開けている場所が左右対称で、自分みたいにいくつもちゃらちゃらと着けるつもりではないらしい。
どちらかというと、控えめで、といった風。
センラとおそろいのイヤーカフもしてほしいなとも思うけれど、流石に恋人でない今の状態でそれを言ってしまえば独占欲が過ぎる。


「ピアス開けたん？ あ、マスクにもつけてるんやな、ええ思う。どっちもええやん、似合うてる」

「あっそう、」

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