歌い手様短編集[大人数合作]part6

あなたの───惚れました。byこたつむり ページ26

あの日、俺は告白された。───男に、だが。


告白と言っても、普通の告白とは少し違って、好きだとか、惚れた腫れたみたいなそういうものでもなくて、ただ一言、言っただけだった。
あなたの顔に惚れました。

今まで直球でそんな風に言われたこともなくて、逆に新鮮だった。
転校する前、地元の高校でも、付き合っては別れを繰り返していたし、何なら中学の二、三年生くらいのときにはもう彼女がいた。
みんな顔が目当てなのはわかっていたし、俺もそれでもいいかななんて思って付き合って、ってやってた。
やっぱり破綻の理由は全部、自分のことなんか俺は好きではないのだろうし、そんな人と付き合っていても虚しいと、大体そんな理由だった。
顔目当てから始まるなんて、わかりきっていたことだったのに。

転校初日は沢山の人の注目の的になったと思う。
その日は話しかけられなかったけど、二日目。
クラスメイトのお前に話しかけられて、それがクラスのみんなの目の前で、
“顔に惚れました”
なんて言うやつが出てくるとは思っても見なかった。
で、何だなんだと思っていたら、次の言葉はお金はいくらでも貢ぐから、自分のそばにいてくれと。
お金に困っているわけでもなかったから、お金の面では丁重にお断りしたけど。

それから数日して、でもやっぱり諦める気はなさそうで。


「なんでそんなに貢ぎたがるん」

「ホストが顔でお金を稼ぐように、いい顔を見るのにはお金がかかる。
少なくともおれは、そんなふうに考えてる」


変なやつだとは思った。
でも悪いやつではなさそうだし、普通に話していても面白いし。
変な話、付き合ってほしいと言われたりもないし。
どちらかというと、憧れのアイドル、推しのアイドルと接する感じ。
けれど人というのは時には担降りもあるもので。


「なぁ、」

「えぁ、あ〜……。あ〜！ 置いかないでよ！」


惚れたといってきたくせに。
ここ最近、あいつが話しかけてくることはなくなり、俺が声をかけたらあからさまに避ける。
正直イラつく。
別に他に推しができたとかならいいが、ある日突然、いきなりあからさまに避けられたら苛つくに決まっている。
今日中に、捕まえてでも話を聞かないと、気が済まない。

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