歌い手様短編集[大人数合作]part6

タバコは憧れ　byこたつむり ページ21

「ねぇ」


体壊すよ？ と言って口からタバコを離す。
そんなに口が淋しいのか。
別にええやん、と言っておれの手から再度タバコを吸うセンラ。
灰皿の上にたばこの灰がはらりと落ちる。
現在、会社内にある喫煙室の中。
おれもセンラもタバコを吸っている。
といっても、おれはとうに吸いきってしまったけれど。
彼はスマホから目を離さない。
話し相手がいるにも関わらず、だ。

唐突に、喫煙所の中で携帯の着信音が鳴る。
発信源はセンラの手元のスマホ。
はいもしもし、といきなり声が変わって対応するセンラは何十枚も猫を被っている。
他の同僚なんかはセンラがタバコを吸うなんて知らないらしい。
だったら会社の喫煙所で吸うなよとも思うが、奇跡的に見つかったのはおれだけだそうだ。

センラが通話中、おれは声を出すことができないので、なんとなくセンラのタバコを吸う。
煙を肺に入れ、すぐに吐き出す。
持っているときから感じてはいたが、いざ吸うと、本当にバニラの味がする。
軽めで、たばこそのものの味があるけれど、バニラの主張が強めで、鼻にバニラの匂いが残る。


「あっま」


味なんて感じないのに、思わずそうつぶやく。
絶対ありえないのだけれど、口の中が甘く感じる。
おれが普段吸っているのはメンソール、センラが吸っているのはフレーバーで、バニラ味だそうだ。
メンソールはミントやシトラス系で、おれはその中でもシトラス系を選んでいる。


「勝手に吸うなよ」

「いいだろ、別に」


いつの間にか電話を終わらせていたらしいセンラがげぇ、という顔をしたおれを見て飽きれながらタバコを取り上げる。
おれが知る限りセンラが喫煙所をこの時間帯に使っているのは最近だし、おれが見つけたのはこの時間帯。
だから、多分最近吸い始めたんだと思う。
もしくは他の人にバレそうになって逃げてきたか。


「甘いんやないの」

「センラはまだ吸い始めなんだから早く辞めたほうがいい」


タバコを吸いながら聞いてくるセンラのことを無視して、禁煙するように促す。
センラはおれにとってセンラのフレーバーが甘いかどうかなんて知っているはずだ。
わざわざ聞くまでもないことだろう。
センラのタバコは確か、ウィンストン・キャスター・ホワイト・3というバニラのフレーバーで、軽い味わいが特徴のやつだ。
おれはマールボロ・ダブル・バースト・パープル・5・ボックス。
シトラス系メンソールのタバコだ。

タバコは憧れ2　byこたつむり→←↑にに書ききらなかった挨拶的な 時林檎。

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