歌い手様短編集[大人数合作]part6

シャンプーと煙草/sm 時林檎。 ページ15

ぽちゃん、温かい湯船に浸かりながらほっと溜め息を付いた。
手でお湯を掬うと彼が気に入っている紫色のラベンダーの香りがふんわりと香った。この入浴剤、結構いいな。

彼みたいに入浴剤を集めてみようかな、なんて考えながら目を閉じてゆっくりと10秒数える。

湯船から上がり、脱衣場に行くと絹色でふわふわしているバスタオルで髪を拭き、体の水分を全て拭き取る。その時に首筋に見えた赤い印に少し驚いたのは仕方ない。

パジャマを着てリビングに行くと、煙のような苦い匂いがした。

スマホを見て気をとられている彼の手から煙草を奪いとり、余計近くから感じた匂いに噎せそうになった。

「なに」
「やめて、って言ったでしょ」

そう言うと少しむすっ、とした顔をされる。

「そんなにリアリティーを求めたいん?」
「…当たり前じゃん」

だって彼は煙草を吸わないもの。

「やっぱりあんた、変態やな」
「うるさい、お前に言われたくないし」

ギロッと睨むと怖い怖い、と笑いながら返される。そのあと真顔に戻ってあいつが口を開いた。

「シャンプー、変えた?」
「うん、あの人が好きそうなやつにした」

そっか、と言って笑うのを見てこいつの好きな人はこのシャンプー使ってたんだろうな、となんとなく感じた。

「それ、ずっと使っててくれへん?」
「いいよ」

そのかわりにもう煙草吸うのやめてね、そう言うと灰皿にそっと灰が落ちた。

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