Episode 11 ページ14
「そんな馬鹿な。あり得ない」
Aの言葉を忍田が否定する。だがAはそれを鼻で笑い落ち着いた声で言い返した。
『すべての不可能を除外して最後に残ったものは、たとえどれほどあり得ないと思われたとしても、それが事実。俺も訳分からん事態なのは一緒だけどこうして目の前に突き付けられた以上は受け入れるよりほかにない』
｢…この人、嘘はついてないよ｣
｢心音に変化なし。多分事実なんでしょ｣
会話の正当性を確かめるべく呼ばれていた菊地原と空閑にどうなのか、という視線を送って返ってきた答えに集まった面々が沈黙する。
「……しかし方法は？ どうやって時間を遡った？ わずか2、3年足らずでタイムマシンが発明されるほど人類が進歩したわけじゃないんだろう？」
忍田の質問にAは小さくかぶりを振る。自分たちの武器が短期間で発展したにも関わらず何を言っているんだと言いかけたが我慢した。
『人類は進化してないけどそんなの関係ないものがあるでしょ』
「というと？」
『拘束を解く気がないなら、誰か代わりに俺の耳のリングピアス取って。左耳の黒いやつ』
Aの視線を受けて皆が躊躇う中、前に進み出たのは太刀川だった。彼は何も言わずAの髪をかきあげ、ピアスを外してみせた。黒地にライトグリーンのラインがはいっただけの飾り気のない簡素なものだ。
「……これがトリガーか？」
『うん、妹だよ』
その答えに皆がぎょっとしたような表情を浮かべ、言葉の意味のわかった者が痛ましげに顔を歪めて俯いた。
『正確には�爐世辰燭發劉瓩噺世Δ戮�だけど』
｢お前の妹さんがどうして黒トリガーになったんだ｣
『………言ったでしょ、災厄かつ最悪な未来を辿ったって。玄界は壊滅しボーダーにも甚大な被害が出た。ボーダーの所有する黒トリガーも増えた。……この意味は分かると思うけど』
今でも鮮明に思い出す。一縷の望みを託して21ｇの道具と成り果て、灰となり消えていった人達。黒トリガーになれなくてただ肉体を滅ぼすだけになった馬鹿なひと。そして、それらを全て見ないフリして目を逸らして逃げ出した自分。あまりに卑劣で愚かしくて吐き気がする。
｢嘘じゃないけど答えにはなってないな。どうしてお前の妹が黒トリガーになったのかって聞いてるんだぞ｣
『幼い頃に近界に攫われて、戦う術を学んだから脱走しようとして失敗したから。ただ死ぬくらいならって』
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作者名：βカロチン | 作成日時：2019年2月22日 22時
