その手はカキツバタには届かない (ページ1)

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Prolog ページ1

荒廃した街並み。そこかしこで煙が上がっている
崩れた家屋が無惨にも晒されている
一際壊されている場所の中心には大きな建物があるが、それも半壊状態だ。何かのエンブレムが描かれていたのは分かるがここからではもう認識さえできないほどに壊されていた

自分がどこに立っているのかわからない。
足元を見ても瓦礫の山。
遠くを見ると、様々な種類のトリオン兵があちこちを我が物顔で闊歩し、物言わぬ骸がゴロゴロと転がってる。
沢山の泣き声が聞こえる。多分、弔った誰かの名前を必死に叫んでいる。戻ってこないと知りながらも繋ぎ止めようとするかのような慟哭があちこちから聞こえてくる

近界の戦争中の国でよく見た光景。
Aにとっては見慣れて、慣れ親しんだ光景。

別に、これが近界のどこかの国を攻めた結果だとかなら気にしない。だがここは玄界で、三門市で、ボーダーのお膝元だったはずの場所だ

トリオンによる攻撃にはこの世界中のどこよりも強かったはずの場所が壊滅している。
瓦礫を踏みつけて、なるべくその隙間や影に横たわる骸を踏まないように気をつけながら歩く。

血塗れの冷たくなったものの中に見知った顔がいくつもあって泣きたくなる。

また、守れなかった。
今度こそは失敗しない、これ以上失わないと決めたのに。

ごめんなさい。
守れなかった。

ごめんなさい。
守りたかったのに、逆に守られていた。

ごめんなさい。
せっかく守ってもらったのに無駄にして。

ごめんなさい。
俺は、この世界を。

『俺、は。この世界を見捨てて。もう一度、やり直す』

ーーートリガーの起動を確認

ーーー適合者の検索、発見

ーーープログラムスタート

ーーー対象の魂の量子変換を開始……成功

ーーー投射後の仮初の肉体(活動体)を生成……成功

ーーー全工程オールクリア

ーーーオーダーの実行を開始します

機械的な音が響き、Aの外郭が溶けていく
起動した黒トリガーの適合者の魂をデータ化し異なる時間軸、異なる位相に送り込む次元跳躍能力が存分に発揮されている証拠だ

〈お兄ちゃん〉

〈やっとルフェール(わたし)を使ってくれたね〉

〈あのね、わたし、お兄ちゃんが生きててくれたらそれだけでいいの〉

〈だからね、だから……ね。絶対に、無茶しないでね〉